SIGGRAPH Asia 2018 TOKYO コラム 特集

【新春スペシャル】それからのシーグラフ(エピローグ・カンファレンス・チェア:安生健一さん)

4回に渡りましてお送りしてきました「それからのシーグラフ」。昨年から続いてまいりました「SIGGRAPH Asia 2018」の記事もいよいよ、こちらが最後となります。

最後は、今回のSIGGRAPH Asia 2018でカンファレンス・チェアを務められました安生健一さんにじっくりと、じっくりとお話を伺いました。7,000文字に渡るロングインタビューです!

それからのシーグラフ 最終章 カンファレンス・チェアの眼前に広がった「SIGGRAPH Asia 2018 TOKYO」、そして「それから」

安生健一
SIGGRAPH Asia 2018カンファレンス・チェア
株式会社オー・エル・エム・デジタルエグゼクティブアドバイザー / ヴィクトリア大学ウェリントン校 CMIC ディレクター
日本を代表するCG研究者の一人。Digital Production Symposium (DigiPro) の創設(2012年、現アドバイザリーボード)などを通じて、映像制作技術の研究・開発、および映像制作現場における実用化を推進する一方、国内外の研究者・技術者との「使える」技術開発のコラボレーションや、CGの国際会議での研究発表などの対外活動も活発に行っている。
これまでに文部科学省科学技術・学術審議会、芸術科学会、画像電子学会(IIEEJ)、GRAPP、CEDEC、MEISなどの委員を歴任。SIGGRAPHには2003年より委員として参加。2014年には本家SIGGRAPHのCAF(コンピュータアニメーションフェスティバル)審査員(~2015)、2015年にSIGGRAPH Asia 2015にてCourses(コース)のCo-Chair、そして2018年にSIGGRAPH Asia 2018のカンファレンスチェアを務める。
VES(Visual Effects Society)会員。

こんなにいろいろな人たちが集まれば、こんなに凄いことができる

VRon この度はお疲れ様でございました。さぞかし大変だったのではないかと……。

安生 いやあ、いろいろありましたね(笑)。

VRon まずはSIGGRAPH Asia 2018が終わった上での率直な感想をお聞かせいただけますか?

安生 やっぱり、こういう大きなものって普通なかなかやる機会もありませんし、これまでについても自分だけではなく、終始自分の仲間たちが集まって(イベントを)やる、という感覚でやってきました。今回のように、更に国際スケールでいろいろな人たちが集まるとこういうことができるんだな、という実感はありますね。

大きな意味では無事に終わった、ということと、いろんな人がいろんな所でいろんな役割をやっていたのを見ているので、我々個々の能力というか、機転とか、いろいろなものが必要なんだな、ということを感じました。技術的なことよりもまず感じたのはそういうところです。終わってホッとした、という感じ。

(カッコ内は筆者による補足。以下同様)

VRon 今回参加人数が10,000人弱(正式発表:9,735名)とのことで、実際には10,000人を超えてる状況だとは思いますが……

安生 そうですね。あの数は登録者数ですので、延べで数えれば10,000人を大幅に超えていると思います。

VRon 今回SIGGRAPH Asiaとしては過去最大規模の人数が参加した、とのことですが、安生さんとしてはどう分析されますか?

安生 「東京(での開催)」というのが、たぶん第一だと思うんですよね。というのも、外国からの登録者数が過去に比べると断然に多くて、開催の1週間前の時点で日本と外国の比率が五分五分……かそのくらいですか、こんなの今までにないですからね。

しかも59か国からの参加、っていうのも凄いですよね……。アメリカと同じくらいの数じゃないかな。欧米の人たちもいっぱい来てましたね。とにかく会場でいろんな方に聞くと「外国の人が多いですね……!」というのを最初に言われました。

あと、若い人が多かったと思うんですよ。学生もいるでしょうけど、若いクリエイターや職業人の人たちが(多い)というのは嬉しいですね。今までのSIGGRAPH AsiaやSIGGRAPHでも年齢層が割と幅広いんですけど、今回レセプションでも若い人がとても多くて、神戸(2015年)の時とはだいぶ違いましたね。

安生 あと、僕が思うのは、プロモーションを今までよりはかなりやってきたつもりなんです。

特に、日本でやるんだから日本のお客さんをいっぱい呼ぼうよ、というのは当然のことで、その意味でもいろいろなメディアに出させて頂いたりしたので、けっこうそれは戦略的にやらせて頂きました。例えばCGWORLDさんの連載なども有効だったと思います。

(CGWORLDの連載インタビューは2018年4月から11月まで。国内向け広報活動、記者会見を2月と10月に開催、ツイッターとフェースブックを2月に開設、プレスリリース配信などを実践)

安生 こういうこと(PRに関する取り組み)って、少なくとも過去のSIGGRAPH Asiaとしてはあまりウェイトがなかった気がします。「東京だから来るだろう」なんていう楽観は全くなかったです。特にSIGGRAPHを知らない人が若い世代を中心に多いですし。

安生 今回「シーグラフの歩き方」というBOF(バード・オブ・フェザー)を久しぶりにSIGGRAPH TOKYOの安藤さん(安藤幸央さん・SIGGRAPH Tokyo Chapterチェア:EXA CORPORATION)がやって下さいましたが、あのイベントの参加者もほとんど初参加の方たちばっかりだったんですね。

で、あのBOFってベーシックカンファレンスパス以上の高いパスじゃないと入れないんですけど、初めての人でもそれだけ聞こうと思ってくれた、というのがスゴイな、と。

VRon 私も参加しましたけど、会場がパンパンでしたよね……!

安生 ほとんどどこもいっぱいでした。ホールが狭すぎましたね(笑)。

「見る」というか、「体験する」というイベントを増やそう

VRon 様々なプログラムがあった中で、一番印象に残ったものは何ですか?

安生 うーん、いろいろありますけど、当初から言っていたこととして、参加型の新しいイベントというのが必要不可欠だと考えていまして「REAL TIME LIVE!」を筆頭に「VRシアター」ですとか……。

それと「プロダクションギャラリー」。今回はアーティストの方々が実際に来て話をしてくれて……。あそこは無料でしたけど、用意していた冊子が4000部以上掃けましたし、(主催者の)感覚的には(来場者が)6000人位来ていたみたいですね。

ああいう「見る」というか、「体験する」というイベントを増やそう、というのは非常に意識してました。そういう意味ではうまく伝わったんではないかな、良かったな、と思います。

VRon 個別に伺いますと、今回から始まったもので一番大きい物として「REAL TIME LIVE!」があったと思うんですね。

安生 どうでした?

VRon 面白かったですねー!

安生 面白かったですよねー。何が起こるかわからない、的なスリルもあるし。

VRon 「REAL TIME LIVE!」の中で一番印象に残ったのはどれですか?

安生 僕は(ポリフォニーデジタルの)「グランツーリズモ」と、(バンダイ)ナムコ(スタジオ)のモーションキャプチャー(「BanaCAST」)、それとCMICの「MR360 Live」ですか。

あと映像のクオリティ、という面ではスクウェア・エニックスさんのとか。あのあたりが今後もっと進化していくと思うので、その現状を見られた、というのが一般のお客さんには大きい、と思いますね。

VRon これ以外にも印象に残った展示発表でいうと何かありますか?

安生 いろいろあると思うんですが、「アートギャラリー」でもアナログのマスクがある一方で高解像度のプロジェクター映像による作品があったりですとか、今回「CROSSOVER」というカンファレンステーマを各プログラムチェアが考えてくれて、いろいろやってくださっていましたね。

あとは、VR/ARやE-techとかでの作品を選ぶ作業や情報交換の過程で、これまでの過去の経験をうまく使えた、というのが良かったですね。あとは「VRシアター」の作品もクオリティの高いものが集まりましたよね。

CAF(コンピュータ・アニメーション・フェスティバル)で言うと、もう「CAF」っていうだけで様々なプログラムが組まれるようになったので、今後どうしていくのかな、どういう位置づけをしていくのかなというのは、SIGGRAPHとしてもいろいろ考えていると思うんですね。

塩田さん(塩田周三さん・CAFチェア:株式会社ポリゴン・ピクチュアズ)も言ってましたけど、今回は「アジアらしさ」が出せてすごく良かったな、と思います。その意味で言うと、今年でSIGGRAPH Asiaは11回目ですけど、そろそろ「独り立ち」しかかっていると言うか、北米(の本家SIGGRAPH)を意識しなくても、ちゃんとしたクオリティを出せたんじゃないか、と。日本の産業にそれだけのものがあるからこそ、これだけのもの、質の高いものが(日本で)出せるんじゃないかな、と思いましたね。

次の一歩を進むために必要なこと

VRon では、逆に「こうすればよかった」ですとか、そういったことは……

安生 それはもういっぱいありますよ!

VRon 先日発表がされましたけども……

安生 はい、あれが一番大きかったですね。あれじゃ、事前登録してもらった意味がないですからね……。

VRon 何かトラブルが起きたんですか?

安生 そうなんです。行列で長時間お待ちいただいた皆様には本当に申し訳なく思っています。予想を超えたというか……、僕自身は(あの状況を)予想できたと思うし(運営事務局(ケルンメッセ)には事前に)言っていたんですけど……。それと、ワークフローがもたついた、というのも聞いています。事務局からは「改善していく」と聞いていますし、自分からも運営事務局へ強く要望を出しています

それから……、ウェブサイトについてもうちょっとスマートにできないのかな、と思いました。

VRon これ……、書いた方がよろしいですか?

河西(SIGGRAPH Asia 2018広報) はい、実際に起きてしまったことですから。

安生 これらの問題について運営事務局は事態を認識したうえで「改善します」と言っていますので、次の改善を期待しましょう

アカデミックよりなSIGGRAPH Asiaの印象を、変えていきたい

VRon 内容の面で「今後はこうしたい」といったことはありますか?

安生 プログラムの中で今回新しくやったものについてはチェアも初めての人がやるわけですから、いろいろ大変だったと思います。その上でいうと考えるポイントとして、技術デモではあるけども、例えば「REAL TIME LIVE!」で言えば「ショー」なわけですよね。

「ショー」であるという感覚からすると、技術を見せる人の順番や演出という点では、個人的にはもっとショーアップできればなー、ということは思いました。とはいえ今回は初回ですからね。次回に活かせることがたくさんあると思います。

VRon 次回はブリスベンでの開催になりますが、近い将来にまた日本で開催する機会が来ると思うんです。それを踏まえた今後の取り組みですとか、こんなことができたらいいな、といったことはありますか?

安生 今回実際に参加してくれたゲーム業界の方々から聞いた感想として、SIGGPAPH Asiaは「学会」だよ、と言われちゃうとどうも敷居が高かった、と。でも、実際に(発表や展示を)やってみたら「お客さんの質が高い」ということと「高いがゆえに手ごたえがあり、お客さんから届く感想も鋭かった」と。

そういう意味で「産業界」からすごく「価値」を見出してもらった、というのは嬉しかったですね。アカデミックな人にとってのハイライトは「論文」で、あとは「ポスター」や「テクニカル・ブリーフ」とかで成果を出すという形になるんですけど、企業の場合だと、いわゆる普通の「展示会」と違っていい人材を引き付けたい、というのは、僕が聞いている限りだと多かったんですね。

企業さんがそういう(ベクトルの)展示をしていて、その意図が伝わるお客さんたち(が来る)というのが、SIGGRAPHの価値である、と思っていただければ、次回はもっと産業界の方たちに参加してくださるのかなと思います。

産業もあるし、学術も頑張っている、全てがバランスよくあるのが「東京」だった

安生 今までのSIGGRAPH Asiaの印象はどうしてもアカデミックよりな感じだったので、それを変えていきたい、というのがあって今回のテーマである「CROSSOVER」もそういう意味で、産業界にも「もっといろいろ交錯する場所があるでしょう?」ということが言えれば、SIGGRAPH独自の意義がもっと広く伝わるかな、と思いましたね。

ただCG云々、というよりも、それを使っていく「産業界」の人がいっぱいいるよ、というのを、方向の一つとして実際にSIGGRAPHで見ることができる、というのがこれからも必要だと思うんですね、で、それが「東京」ならそれができるのかな、と。産業もあるし、学術も頑張っていますから、全てがバランスよく入ってくるのが「東京」だったのかな、と思います。

SIGGRAPHの委員会に「SACAG (SIGGRAPH Asia Conference Advisory Board)」があります。ここが開催場所などを決めるんですね。再来年はすでに決まっていて韓国の大邱(デグ)でやるんですけど、3年に1回は(日本で)やりたいね、って人も多くって。

日本でやると大体うまく行っている、というのもあるみたいです。2015年が神戸で2018年が東京、ときていて、しかも毎回やることに参加者数が増えていますから、そういう意味では、今回がきっかけとなって、もっと(日本で)いろんなことをやって頂ければいいな、と思います。

VRon 個別の展示で印象に残ったものはありますか?

安生 実はあんまり展示を見られなかったんです。展示イベントではないですが、同じエリアで開催されていた「VRシアター」が良かったです。

クオリティも高かったですし、かぶりっぱなしでも問題なかったですね。あと、「VR酔い」を気にされる方が多かったんですが、そこについては大きな事故もなくて、皆さんが非常に気を使って展示を作られていたんだな、と思います。

VRon 東京国際フォーラム、という場所についてはいかがですか?

安生 今回の東京開催が実現したのは、ちょうど12月初旬にたまたま東京国際フォーラムが空いていた、というのが大きかったんです。案としては幕張とかお台場とかも上がっていたんですが、SIGGRAPHだと「コース」とか「テックブリーフ」といった会議スタイルや細かいプログラムも多いのもあって会場としては国際フォーラムが一番いいんです。

お台場や幕張だと都心から遠くなってしまいますけど、そういう意味でも東京国際フォーラムは都心だし、周辺にいろんなお店があるし、海外の人にとっては特に楽しめたんじゃないかな、と思います。

とはいえ、今回どのプログラムも満杯ちかくになってしまったので、例えば別室でサテライト視聴ができるとか、そういう工夫はできるのかな、と思います。特に「Technical Papers Fast Forward」は本当に満杯でしたからね(笑)。

VRon 行列がすごかったですね!

安生 1,500人くらいは入ったんじゃないかな。「Technical Papers Fast Forward」が短い時間で「こんなことをやります」とアピールできる場所として機能している、というのは大きいんだと思います。あれ、一人当たりの発表時間が年々短くなっているんですよ(笑)

VRon そうなんですか!(笑)

安生 一定の時間内にたくさん詰め込んでいきますからね。あとプログラム内で配られたパンフレットがとても好評でした。

VRon あれは発表の内容がよくわかって便利でしたね。興味がある発表にチェックを入れられるようになっていましたし。

安生 そうそう! あれ、今回が初めてなんですよね。来場されていた皆さんも楽しみながら見てくれていたので、本当によかったと思います。

それと、ポスターの場所がよかったですね。登録申し込みの列の途中に置くことで、待っている間にも楽しんで頂けた、というのは良かったな、と。

同じ目的を持った人の仲間探しができる場所、それがSIGGRAPH

VRon 最後に、読者の皆さんへのメッセージをお願いします!

安生 技術を作っている人の立場から見ると商売にする難しさですとかいろんな問題を抱えていると思いますが、SIGGRAPHのような場所をうまく使って、近隣の人、同じ目的を持った人の仲間探しができる場所になればいいな、と思っていますし、そういう目で見て頂けるとまた違った使い方ができるので、今後ともぜひ活用して頂ければ、と思います。

今回のSIGGRAPH Asia 2018において、我々はご縁を頂き、メディアパートナーとしてこの一大イベントを記録してきたわけですが、安生さんからお話を伺うことで、「カンファレンス・チェア」という立場にいる方だからこそ見える地平線があるんだ、ということを痛烈に感じました。

SIGGRAPHというものを日本に根付かせ、機能させるためにはどうしたらよいのか。

長年SIGGRAPHに携わり、その意義や息吹をご存じでいらっしゃる安生さんにしか見えない「景色」がそこにありました。「学術」というベクトルと「産業」というベクトルを、「CROSSOVER」させることの難しさと可能性。この二つをイメージした上でお聞きした言葉の数々は、透き通った水面のCGのようにとっても優しくて、それでいて真摯なものだったのです。

10月の記者会見から今日に至るまでの3か月余り、我々はかけがえのない経験と、たくさんの情熱を持った皆様からの知見を頂きました。そのご恩に報いるためにも、我々は情報の波を追いかけ続けなければならない。そう固く心に決めた一時でした。

これにて、VRonWEBMEDIAのSIGGRAPH Asia 2018レポートは以上となります。お力添えとご配慮をいただいたすべての皆様に、抱えきれないほどの感謝を込めて。

 

また、SIGGRAPHでお会いいたしましょう!

取材協力:株式会社オー・エル・エム・デジタル /  SIGGRAPH Asia 2018

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