慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科「身体性メディア」プロジェクト『EMBODIED MEDIA』へ行って、世界を肌で感じた若者たちの情熱を感じてきました!

その時、筆者は道玄坂におりました!

4月下旬、私達VRonは慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科「身体性メディア」プロジェクト『EMBODIED MEDIA』の研究拠点「Living Lab Shibuya」にお邪魔させていただきました。

昨年開催された「IVRC 2018」にて「Laval Virtual賞」を受賞し、今年フランスにて開催された『欧州におけるVRの祭典』Laval Virtualに招待された作品「TeleSight」「PINOSE」を作り上げた皆さんに、じっくりとお話を伺うためです。

彼らとの出会いは昨年の「DCEXPO 2018」にまでさかのぼります。

IVRC 2018の決勝大会が行われたDCEXPO 2018。筆者はこの出展会場にて初めて「TeleSight」「PINOSE」を拝見させていただきました。表彰式での「Laval Virtual賞」が発表されたとき、彼らが誰よりも早く驚きの声を上げていたのが印象に残っています。その後……

VRSionUp! #2へ行って、Laval Virtualに挑戦する学生のチカラと「Vケット2」の真の魅力に触れてきました!

その日。筆者は六本木ヒルズにおりました! 3月1日、GREE VR Studio LabはVRに関する研究をベースにした ...

彼らがLaval Virtualへと旅立つ前の3月、グリーさんの「VRSionUp!」にて初めてご挨拶をし、その場で取材をお願いさせて頂いたのです。そして今回、皆さんのお話を伺うことが出来ました。

今年も、IVRC 2019の書類審査応募が5月28日から始まりました。彼らはIVRCから見事フランスへと旅立ち、そしてさらに遠い海外の地へ招かれ、自分たちの作品を届けようとしています。とても稀有で貴重な体験と叡智の数々を、まさに全身で感じ取っている最中の彼らには、一体どんな思いが去来しているのでしょうか。

そんな思いを馳せながら、じっくりとお話を伺ってまいりました。12,000字に渡るロングインタビューです。ぜひご覧くださいませ!

「TeleSight」「PINOSE」ロングインタビュー

(左から)鵜重誠さん、代田ケンイチロウさん、古川泰地さん

VRon まずは自己紹介からお願いします!

古川 慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(以降「KMD」)の古川と申します。修士の二年生です。人々が自身の身体を通じた体験や経験を拡張したり、共有したり…といったものを研究する「身体性メディア」プロジェクト(『EMBODIED MEDIA』)に属しています。

最近ではVRのインタラクションをより現実空間の人とシェアする体験を実現するシステムとして「TeleSight」を開発しました。

鵜重 同じく鵜重と申します。僕はどちらかと言うと体験というよりは技術方面の比重が大きくて、触覚関連を(中心に)やっています。例えば触覚をインターネット上にて伝送するにはどういうハードや規格が必要なのか? といったことを研究しています。

代田 同じく代田です。鵜重と同じ「PINOSE」というプロジェクトに参加しています。

VRon では、現在の活動に至った経緯やきっかけなどを教えていただけますか?

古川 僕は出身が高専(サレジオ高専)で、7年間プログラミングやアルゴリズムなどの情報分野を学んできました。その後大学に進学してからは「この技術を用いて,実際に体験できるなにかを作りたい」と考えたことで、メディアについて学んでいくようになったんですね。

その後、以前『EMBODIED MEDIA』が水口哲也さん(Enhance Inc.)と共同で触覚インターフェイスを研究開発したことがある、ということを知りまして、XR領域という物がある中でそれをさらにどう「拡張」していくのか……、さらにそこから5年、10年先の新しいエンターテイメントがどうなるのか……というのを議論している土壌が(『EMBODIED MEDIA』に)ある、ということをその時に知ったんです。

自分が元々ゲームが好きなこともあって、こういうところを研究したいな、と考えてこの世界に飛び込みました。

(カッコ内は筆者による補足、以下同様)

鵜重 僕も同じく高専出身(木更津高専)で、自分は情報工学をやっていたんですけど、高専の3年目に「IVRC」のユース部門で入賞しまして。その期間を含めて、最初の5年間はロボットとVRについて研究していました。あとの2年間は「植物工場とIoT」について研究していてVRとは一旦距離を置いていました。

当初は大学院ではもっとネットワークやハードウェア寄りの研究をしようと思っていたんですが、自分が「面白いな」と思ったものを見つけたということもあって、研究チームを変えて現在こちらに所属しています。

VRの中で「安心感を感じる」ような設計ができないか

VRon なるほど……。皆さんKMDに入られた後に「TeleSight」「PINOSE」に携われていらっしゃいますが、どういった流れでこの研究にたどり着かれたのですか?

古川 元々『EMBODIED MEDIA』では、修士1年のときの恒例として、国内のコンペティションである「IVRC」に出ることを通して「VRというものが何なのか」ということを考えていくのですが、この流れで考えたのが「TeleSight」の一番最初、ですね。

古川 VRというものをやっていく中で、個人的にはVRってすごく孤独な体験だな、って思ったんです。VRの世界に没入していって、現実にはできないことを体験していくところに対して「でもVR体験って、一人でしか体験できないじゃん」、と。

VRChatですら、現実のコミュニケーションがVRに置き換わっただけで、現実のパーティーで感じるような孤独感に襲われることすらあります。

そうではなくて、VRの中で「二人で協力」したりとか、「安心感を感じる」ような設計ができないかな、というところが「TeleSight」というものを企画書としてIVRCに書いたきっかけですね。

VRon 結果として、KMDに入って初年度に書いた「TeleSight」が一発で(選考)を通過して、Laval Virtualにつながっていくと……。

古川 IVRCの予選が東北でありました。僕の「TeleSight」は国内の先生方や研究者の皆さんへのウケは比較的良くなかったんですが、ギリギリの10位で決勝大会へ進むことができまして……。で、決勝でLaval Virtualのチェアの方から「これはおもろい!」と(笑)。

「TeleSight」は、VRHMDとマネキン型の現実拡張デバイスを用いたデモンストレーション。

HMDを使ったVRコンテンツ体験における弱点の一つとして、HMDを装着していない第三者に体験を伝えられない、という観点があります。例えば複数のHMDを同期させたりすることで体験者数を増やしたり、VRで表示されている2D映像を外部ディスプレイに公開することなどはできますが、VRコンテンツそのものを同時に共有し体験できる、という点では根本的な解決手段にはなりません。

そこで「TeleSight」では、HMDを用いたVR体験で最も重要である「視界」に着目しています。

HMDをかぶった体験者が見ているコンテンツは後方にある半円状のスクリーンに投影されていて、その中央にあるマネキンがHMD体験者の視界に同期する形で可動します。

このマネキンの目の部分を、別の体験者が視線を遮るようにして隠すと、HMD体験者の視界も手のCGで覆われる、という仕組みです。

元々、匂いの提示を含んだ体験をつくりたかったんです

鵜重 僕の場合は若干経緯が違いまして……、「PINOSE」のアイデアは代田が考えたんです。代田曰く「……思いついちゃった」と(笑)。

代田 そうですね、思いついちゃったんです(笑)。でもよく考えると、当時僕の中で「匂い」を使ってなにかしらの体験がつくれないかと、ずっと考えていたんです。その中で、IVRCの過去作品を見てみると、匂いを提示する作品は近年ではまったくなかった。だから嗅覚へのアプローチを企画の中に入れようと考えたのです。

そして、嗅覚提示するのであれば鼻にフォーカスしたアイデアがいいなと考え、世界的に知られている童話のストーリーを加えました。そうなってくると、テーマはピノキオだし、とにかく「まずは鼻を伸ばしてみよう」となって。テープを鼻につけて、引っ張ってみたのです。

そうしたら「伸びた感」のインパクトが強かったので、「あ、これいけるかも」と思い、この体験を中心に、匂い提示を加えていくことに決めたのです。基本的にはVRのコンテストなので、普通に考えたら出来ないことができるようになれば、エンターテインメントとして楽しいんじゃないかなぁと思っていました。

VRon 体験の設計も、ピノキオをベースに考えていったのですか?

代田 そうですね。「嘘をつくと鼻が伸びる」というピノキオの童話のエピソードにフォーカスして、じゃあ、そのあと鼻が伸びたら何ができるんだろう、って考えていきました。

伸びた鼻の先に例えばリンゴがあったら、コツンという衝撃が鼻にフィードバックがあったりとか、あるいは伸びた鼻の先にコーヒーカップがあったら、その上を通った時にコーヒーの匂いを出したらいいんじゃないかとか。

「PINOSE」は世界的に有名な童話「ピノキオ」を題材にしています。ピノキオが嘘をつくと鼻がビュイーンと伸びてしまいますが、この「鼻が伸び縮みする体験」をVRコンテンツと併せて擬似的に体験できるデモンストレーションです。

HMDにはOculus Goをベースにしたシステムを使っている他……

目の前にはディフューザーを使用。ここから香りを出すことで「伸びた鼻で嗅いでいる香り」を体験できるようになっています。その他に振動子なども仕込まれていて、鼻が物にぶつかる、といった体験も表現しています。

VRon 鵜重さんとしては「PINOSE」のどういったところがLaval Virtualに認められたんだろうって思いますか?

鵜重 一度(Laval Virtualの)チェアの方に伺ったことがあるんですけど、Laval Virtualが今掲げている「VR 5.0」というテーマの中で、「いわゆるHMDだけではなく、匂いやいろいろの感覚を併せて体験できる作品」というのがいいよね、という風には言っていただきました。

VRon 今回実際にLaval Virtualに招待されてフランスで発表をされたわけですが、まずは率直に伺います。「Laval Virtual」、実際に行ってみてどうでした?

古川 Laval Virtual自体がとてもいいイベントだなと思いました。 Lavalって田舎の古くて良い雰囲気の町で、そこに最先端の技術と人を集めてやっているという事自体も風景としていいですし、現地の人の受け入れ方も『Laval Virtualだ!』という感じでお祭りになっていて、日本人のグループが歩いているだけで、『今度見に行くからな』と声をかけていただいたり、とても暖かい感じの街でした。

鵜重 しかも、わりとリサーチ関係のブースが研究系の近辺にあったりして、かなり面白いアイディアにたくさん触れることが出来て良かったです。

古川 2つの二面性というか……、Laval Virtual自体もビジネスをやっていて、今「VR」という市場がどこまで行っているのか、とか、どういうものに(VR関連の)各社が力を入れているのかとかが解りますし、研究的な分野に限らずゲーム関連分野の出展も多くて、研究とかゲーム関係で最先端を行っている人たちが、何を考えて何を(Laval Virtualに)持って来ているのかが同時にわかる、というのがとても印象に残りましたね。

VRon それって、Laval Virtual自体が結構多面的な面を持っているということですか?

鵜重 そうですね。それに、その多面性のバランスがすごく良かったです。

「感度が高い」Laval Virtualの「地元」の来場者たち

VRon 現地のフランスの方達や、参加者の方たちの反応はいかがでしたか?

古川 Laval Virtualには「ビジネスデー」と「一般デー」があって、結構そこに差はありますね。

ビジネスデーに関してはやっぱりというか、『(この研究は)ビジネス的にどうするんだ?』『ビジネスにどう売るんだ』という質問が多くて(笑)。彼らってコンテクストの理解が早いんですよ。研究という前提の元だったら『あ、こういうものなんだ』とか、『新しい体験なんだ』というところを受け入れてくれる一方で、そういう(ビジネス的な)温度差みたいなものも感じました。

逆に「一般デー」は全然違いました。Laval Virtualって20年以上やってるイベントなので、(地元からくるお客さんが)子供のころからやってるんですよね。だからVRというものをよく知ってて、平然とVRヘッドセットを付けて「なんだこれ!」とか言いながら、もうダイレクトに楽しんでました。それこそ普通の東京の人よりもVRをやってる感じ(笑)。

鵜重 そうそう。とても感度が高かったんですね。

古川 「PINOSE」での「鼻を伸ばす」という体験に対しても、受け入れ感のスピードは早いな、と見ていて感じました。

鵜重 「PINOSE」自体がカテゴリーが「子供向け」に分類された関係もあって、一般公開の日とかすごい小さい子から体験して頂きました。それに、Laval Virtual側の方で「小さい子が体験する時のフロー」というのがどうやらあるらしくて、ちゃんとスタッフの方が事前に説明をしたうえで、体験をしていただいたので、こちらとしてもとても安心しました。

あとは(来場者の客層が)普段、日本じゃ体験されない(ような年齢層)の方々なので、例えば小学生入るかどうかな?ぐらいのお子さん(の体験)なんていうのは(日本では)まったくなかったことなので、すごく新しいフィードバックでしたね。

代田 「Laval Virtual」って、VRで個人の世界からより開かれた、みんなで体験するみたいなことが全体のテーマになっているのかな……っていう中で、PINOSEは「鼻は伸ばす」わ「匂いは出す」わで。かなり異色な存在でしたね。

週末とかはお子さんとかがよく来て、意外と「痛がるかなぁ?」「怖がるかなぁ?」…って思ったんですけど、意外とすんなりと皆さん楽しんでいたので、とっても良かったですね。

「現実」と「バーチャル」で非対称なインタラクションをつくる

VRon 結果として賞を取られたわけですけども、賞をとれたのは何故だと思いますか?

古川 「TeleSight」が「#RESEARCH」の最優秀賞を頂くことができたんですけど、実際に予想は全くしてませんでした。

後から振り返ると、今回「Laval Virtual」自体が「VR 5.0」というテーマを持っていました。僕ら(TeleSight)が取ったのは「#RESEARCH」の最優秀賞なんですけど、総合の「GRAND PRIX」という金色のトロフィーがありまして、それを取ったのは、「4人で「アポロ11号」の体験をバーチャルでできる発表」だったんです。

参加者のうち二人がVRプレイヤーで、二人がインカムをつけてディスプレイで色々情報を見ながら(VRプレイヤーに)指示をするという風になっていたんですよ。VRの人たちと現実の人たちが協力するという感じ。

古川 もう一つ学生部門で賞を取ったのも「VRを付けている人が『Alice in Wonderland』の世界を体験して、外の人が物語を選んでいく……という内容だったんですよね。それも「現実」と「バーチャル」を同時につないでインタラクションを作る、っていう点では共通していました。

「TeleSight」もかなりそういった部分をやっていて、「現実」と「バーチャル」で非対称なインタラクションをつくるかって所を試みた結果ああいう形になったわけですけど、全体としてそういったところを評価されているような気がしています。

「VRがこういう風に行くべきなんだ、VRをよりソーシャルなものとか、シェアできるエクスペリエンスにするべきなんだ」という、方向性を彼らが持っていたんですよね。それがたまたま、僕らが考えている事と一致して結果こういう形になれたのかなあ、と思っています。

VRon リアルとバーチャルの結びつきや連動性というところが、Laval Virtualではかなり重要視されていた……ということなのでしょうか? 例えば、「リアルとバーチャルの結びつきや連動性」を目指した作品は全体のどれくらいだったんでしょうか。

古川 数として多くはないですけど、賞を貰ってるのは確かにそういう(テーマを持っている研究の)ものが多かったですね。

「Laval Virtual」というか、VRの市場としても技術的にはもうある程度成熟しているような印象を持っていて、例えば、数年前とかには多かった「新しいHMDとか新しいトラッキングシステム」的なものがほとんど(出展が)なかったんですよ。研究でも企業側でも「どう遊ぶか」「どういうアプリケーションがあるか」とかしかなくて、さらに先の未来を見据えてるのが例えば研究系だったりするんですよね。

かつ、その先にある「シェアードエクスペリエンス(共有体験)」とか「ソーシャルな体験」とかをやっているものが、特に評価を得たのかな……というのが、Laval Virtualとしての全体の印象ですね。

VRon 古川さんの受賞を見て、鵜重さんはいかがでしたか?

鵜重 正直に言うと「いいなぁ」でした(笑)。でも確かに受賞した作品の一覧を聞いたときに、「あぁやっぱりそういう傾向を重視しているんだな」と感じました。僕らは僕らでまた違った「VR 5.0」をやればいいかな、と思っています。

その先にある「SIGGRAPH」に向けて

VRon Laval Virtualの後はSIGGRAPH本家ですね。SIGGRAPHに臨まれるにあたって、例えばどういうところを目指したいとか、あるいは今既に出来ている部分にどういう改良を加えたいとか、そういった部分のビジョンは現時点でありますか?

古川 これまでの「IVRC」と「Laval Virtual」ってどちらも展示会なんです。僕らは「TeleSight」をリアルとバーチャルのインタラクションを作る、それを体験できる「作品」として作ってきたわけですが、SIGGRAPHは国際学会なので、研究としてコンテクストを持たなきゃいけないという風には感じています。

「TeleSight」が単なる作品ではなくて、研究として「TeleSight」というものを位置づけようと考えたときに、今の状態が最適な形なのかどうかは、まだまだ議論の余地はあるかと思いまして、そのへん考えながら改良というか……再構築をしているのに近いというか。「TeleSight」が研究の文脈に向かっていい部分と、これは別にどうでもよかった、というような部分ももちろんあるはずで、良いところと悪いところのエッセンスみたいなものを抽出して、それらを再構成しよう、とは思っています。

VRon 今は「再構築の最中」という感じ?

古川 そうですね。いずれにせよ、僕らが出すイマージングテクノロジー(E-tech)という部門は論文とかも必要になってくるので、そこに研究としての形を持たなきゃいけないと思っています。

VRon 鵜重さんはいかがですか? 「PINOSE」を出して、Laval Virtualまで行った、この先についてお伺いできれば。

鵜重 実は、「PINOSE」も(SIGGRAPHの)E-Techに採択されまして……

VRon おお! おめでとうございます!! じゃ、まずは「SIGGRAPH」に向けてという感じですか?

鵜重 まずはそうですね。で、研究面では「PINOSE」の方で別個に進んでいたものがあるので、研究部分の肉付けは結構済んでいる状態にはなっていますね。

まだどちらかというと、展示中に凄く説明が必要になってしまったり、「体験者の側が自発的に動かさなくてはならない」っていうところが課題なので、そこはどうにかしたいなぁっていう点と、今後SIGGRAPHから先の話にはなるんですけど、(今取り組んでいる)「鼻」以外(の身体器官)にもそういう効果は出るんじゃないかなという風に目論んでいたりはします

VRon 代田さんはいかがですか?

代田 「E-Tech」での採択ということで、基本的には技術や体験の新しさをアピールする場と捉えています。「鼻がのびる」「のびた鼻が重くなる」「のびた鼻で匂いを嗅ぎ分ける」など、それぞれの体験を一つひとつ丁寧に見せていこうと考えています。もしくは「鼻が伸びる」というだけで驚いてくださる体験ではあるので、その部分をもっと強調してもいいのかな、っていうのもありますね。

それぞれが考える、それぞれの未来へ

VRon では、長期的なことをお伺いします。SIGGRAPHの先、 KMDさん、 EMBODIED MEDIAさんで、今後こういう事やりたいなど、その先どういう活動したいか、今思い描いているものを教えてください。

古川 「TeleSight」に関していうと、「VRの体験ををソーシャルなものにしていく」とか「現実とリアルで非対称のインタラクションを作る」っていうのは、トップの研究者達の間でも議論、評価がされつつあるんですね。

そういった流れの中で、僕らがSIGGRAPHまで行けたということであれば、僕ら自身もその議論にコミットメントするべきだ、と思っています。なので「人とコンピューターをどう繋ぐか」をアカデミックに議論するHCIの分野に対して「TeleSight」を提案していく,といのが今後やりたいことの一つだと思っています。

鵜重 僕たちの方はどちらかというと「錯覚」を使っているものになっていて、今KMDというかEMBODIED MEDIAとして作れるようにはなったので、「その先をどうしようか」というところを模索している状態ではあります。

その中で僕たちの方ではもっと「心理学」であったりとか、そっちの方向に持っていくことは出来ないかなと考えていまして、その起爆剤になるのが「PINOSE」かな、と。「PINOSE」は鼻を伸ばす錯覚があって、「じゃあ、この錯覚ってなんなんだろう? 他のところで出来ないかな? できるようになったらどうなるんだろう?」っていうところを進めていく、という段階になるのではないかな、と思います。

代田 僕の興味の方向としては「クロスモーダル現象(視覚と味覚、視覚と聴覚など、本来別々とされる知覚が互いに影響を及ぼし合う現象)を使って、人間の知覚をハッキングしてみようよ」っていう大きなテーマがあるんですが、その中に一つ大きなプロジェクトとして「PINOSE」があります。

「PINOSE」は「鼻が伸びる映像情報」と「鼻をひっぱるという力触覚提示(力を使って触覚フィードバックを与えること)」を組み合わせることによって、知覚を変化させ「(鼻が)伸びるという錯覚をもたらしています。また他のプロジェクトでいうと「実際にシャワーに浴びてないのに浴びたような錯覚」を映像情報と触覚提示を組み合わせてつくりました。さらには「耳を開閉することを通して、音が聞こえてくる方向の知覚を変える」というようなことなどにも取り組んでいます。

今後も、体の部位にテクノロジーを使って変化を与えることで、知覚を変化させる」といったことに興味を持ってやって行こうと思っています。

「新しい現実を作る部分」が当たり前のように混在している未来

VRon では、さらにもっと先について聞いてみてもいいですか? 就職とか、進路とか、もっと未来のことについて考えていることがあったら、ぜひ教えてください。

古川 僕は昔からゲームが好きで、そのこともあって「体験」をどう作るか、というのが好きなんですよね、「TeleSight」を含めた「VR」というものは、あくまでこれまでに技術が成熟して今この形をしているわけで、これから技術が変わっていけば、VRとかMRっていう単語や定義もどんどん変わっていくと思います。

その中で、「体験」をどうデザインするかっていうところ……僕が身につけたり議論している事というもの自体は廃れることはないというか、不変的な要素だと思うので、きちんと今取り組んでいる研究を通して、そういった経験を僕自身が積んでいって、新しい「体験」というのを作り続けれるようになるのが一番いいのかなと思っています。

鵜重 僕の夢は……テーマパークを開発している会社に行きたくて、最終目標はそこなのでそこに向けての動きをしています。

「PINOSE」の方も割とそういう文脈に近くて、凄くいい物語だったり、発想だったり、じゃあこれをどうやって機械やプログラムで生み出したらいいんだろう、と言うところを考えることが凄くすきなので、最終的にはその会社のそういうことをする人になりたいですね。

代田 自分は社会人をやりながら大学院生をやっていまして。会社では新しい事業を開発する部署でクリエイティブディレクターをやらせていただいています。僕の場合は、特に今後の進路を決めているわけではなくて、いま目の前にある研究がめちゃ楽しいので、それに全力で取り組んでいます。

研究生活を通して、普段の仕事にもアカデミックな視点やリサーチ的な視点が加わることで、自分の関わるプロジェクトにより厚みやユニークさが出てくるといいなあと思っています。ところで、今日は遅刻してすみませんでした(笑)

VRon 今後、XRを巡る技術が目まぐるしく変わっていくと思いますが、例えば「5年先」はどうなっていると思います?

古川 今って、VRで没入しようとか、現実にも情報を置きたいからMRにしようとか、携帯でAR使おう、という感じで、今は使うデバイスとか使う技術とかによって単語が分かれていると思うんですけど、そこで技術ベースで培ってきた理解みたいなのがどんどんと浸透してきて、じきに「人工現実感」が当たり前のように生活に混在しているようになっているのではないか、と思っています。

それは多分、今のVRでいうところの「ヘッドマウントディスプレイ」的なものを超えるような状況があと5年後にはきてるんじゃないか、今はみんなこれ(HMD)がVRって言ってるけど、実は他の「これ」がVRだったんじゃないか、みたいなものが、5年後にはプロダクトだったり生活空間だったりにあるんじゃないかな……と思いますね。

鵜重 僕は逆に、5年後には皆HMDはかけてないんじゃないかな? と思っています。それこそ、VRってものが「VR」という単語じゃないものにとらえられていて、その上で生活の中にある……みたいな。あとは仰々しくないというか、「スマホ」まではいかないですけど、そういったレベルで(VRに)普段から触れて生活しているというレベルにまでは一般化されるんじゃないのかな、って思います。

古川 僕らは今「研究者」として「E-Tech」みたいなものを見ていますけど、今の僕らとかがVRという分野で議論をしていたことが、まったく別の分野で実現し始めるのが、多分それぐらいなのかな……と。

「自分が本当に好きなもの」を、絶対に捨てない、あきらめないこと

VRon それでは、最後に、「VRに興味を持つ若い方たち」へメッセージをお願いします!

古川 VR関連の領域って今かなり流行ってきていますよね。皆が注目しているし、若い人たちもわぁっと入ってきている状況です。似たような事例として「AI」とかもそうですけど、こういった分野に入って勉強して活躍するのはすごくいいことだと思いますし、比較的やりやすいとも思います。

で、そういうことと同時に、「自分が本当に好きなもの」、本質的に「俺はこれ、言葉をしゃべり始めたときから好きなんだ!」っていうようなものを絶対捨てないことっていうのは重要だな、とも思っていて。そこが繋がったときに、周りにいる流行りを追っかけてる人達よりも、1段も2段上の方に行けるじゃないかと思うんですよね。

なので、絶対に自分が本当に好きなものをちゃんと自分の中で持って、その上で「VR」の分野に来ることは凄くいいことだと僕自身は思っています。

鵜重 凄く言いたいこと言われちゃったんですけど……(笑)。ホントに、僕も好きなものをできないであきらめないでほしいなと。

その道をつき進めていけば、そのうちにいろんな人が近づいてくる、力になってくれて、結局凄く自分のなりたい姿になっていくので、その心は忘れないでほしいなぁと思います。

三人のお話を伺っていて感じたことは、これまで皆さんがなされてきたことへの「自信」と、その先に繋がっている「未来」への視点・観点の高さ、でした。

日本の「IVRC」ですら狭き門、その狭き門を乗り越えて、Laval Virtualで結果を出し、そしていよいよ「SIGGRAPH」という国際学会の檜舞台へと向かっていく皆さんの言葉一つ一つの大きな重みがあるのと同時に、その芯の太さを感じました。

そして、さらには新たなるステージへもきっちりと目線を向けていらっしゃる、Laval Virtualのトロフィーの先で熱心にお話してくださるその姿の、頼もしさといったら!

彼らの次の舞台は「SIGGRAPH 2019」です。エマージングテクノロジー(E-Tech)は、日本語に訳すと「最先端技術」。世界的な最先端技術の最前線に彼らは乗り込んでいきます。7月28日から8月1日までロサンゼルスで開催されます大舞台での活躍を、心より祈念いたします! がんばってー!

取材協力:慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科「身体性メディア」プロジェクト『EMBODIED MEDIA』

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