情報科学芸術大学院大学「IAMAS 2019」へ行って、メディアアートの可能性を体感してきました!(4・作品紹介その3)

岐阜県にあります大学院大学、情報科学芸術大学院大学[IAMAS]が2月21日から24日までの日程で開催しました、第17期生による修了研究発表会および2018年度のプロジェクト研究発表会「IAMAS 2019」。各研究発表・展示についてご紹介しています。今回はその3回目です。

情報科学芸術大学院大学「IAMAS 2019」へ行って、メディアアートの可能性を体感してきました!(3・作品紹介その2)

岐阜県にあります大学院大学、情報科学芸術大学院大学[IAMAS]が2月21日から24日までの日程で開催しました、第17期 ...

平瀬 未来「Translucent Objects」

今回はお二人の発表をご紹介します。まずは平瀬未来(平瀬ミキ)さんの「Translucent Objects」。

平瀬さんは武蔵野美術大学造形学部彫刻学科を卒業後、IAMASに入学。IAMASで研究する一方で、外部展示も積極的に行っていらっしゃいます。実は今回の「Translucent Objects」はIAMASだけでなく、2018年12月11日(火)—2019年3月10日(日)の日程でNTTインターコミュニケーション・センター(ICC)「エマージェンシーズ!036」で展示をされていたんですよ。

Translucent Objects」とは、「半透明な物体」。

ブース内に設置されたディスプレイには、重なり合った複数の積み木のような物体が映し出されています.積み木は、画面の中に時折現われる手によってその配置を変えていくのですが、よく見ると積み木は半透明の形で投影されているのに加え、ちょうど鏡面のように反転したもう一つの映像が重ね合わされていることがわかります。

これは、カメラを向き合わせる形で設置し、カメラの間で色とりどりの積み木を積み上げていく様を撮影し、両面それぞれのカメラが記録した映像をちょうど50%の透明度で重ね合わせているんですね。

両面の映像が重なることによって、表と裏が半透明に表示されている、独特な映像としてディスプレイされる……という仕組みです。平瀬さんはIAMASの公式サイトにて、

出来事を2台のカメラで表裏から撮影し、その2つの映像を不透明度50%の状態にし、重ね合わせた映像である。撮影された物体は半透明の状態となり、2つの映像内の物体の位置が重なり合うことで不透過の部分が現れる。この不透過の部分を「メディア空間における彫刻」とし、メディアを通してモノを見ることを再考させる。

IAMAS2019公式サイトより

との言葉を寄せています。

「メディア空間における彫刻」……! 虚像としての映像を「可塑性のある素材」として取り扱うことで、見る人にとって全く違う視覚体験を提供することに成功しているわけです。

また本展示では、この「向かい合うカメラが記録した実像を重ね合わせる」という体験をよりリアルなものにする試みも行われていました。それが……、

これ!

ブースには一つのHMDが置かれており、HMDから等間隔で2つのウェブカメラが向かい合わせの形で設置されていました(写真右に大きく写っているのが、そのウェブカメラの1つ。もうひとつのウェブカメラはHMDの向こうにあります)。このHMDに限り、ブース内で手を触れることができるようになっています。

実際にその場でHMDを覗いてみると……

HMD内のディスプレイには、2つのウェブカメラが捉えている映像が片目ごとに投影されているんですね! つまり、上記のディスプレイで行われていた「向い合せに置いたカメラの映像を半透明にして重ねる」というプロセスを、「HMD上で片目ずつに投影することで、「半透明にする」「重ね合わせ(て編集す)る」というプロセスを経ずして同様の体験を掲示する」ことに成功しているんです!

この構造に気づいた時、思わず「わぁ!」と小さく叫んでしまいました……!!

実は、このHMDを使ったインスタレーションの元になっている作品があります。それが、昨年のIAMAS修了展で展示されていた杉山一真さんの「混合する光」という作品です。

IAMAS 2018における、杉山一真さん「混合する光」の展示の模様

この作品は、VRHMDの登場によってもたらされた、プロジェクターや通常のディスプレイとも違う視聴体験をモチーフにしたインスタレーション。通常の立体映像とは違う表現を模索した結果、杉山さんがたどり着いた映像が、こちらです。

杉山さん御本人による上の動画をご覧頂ければおわかりの通り、通常の立体視ではなく、左右の視野に全く違う映像をタイポグラフィが散りばめながら、時には映像が同期し、として突然タイポグラフィが視差を伴って現れる、という構成になっていたんですね。

杉山さん曰く、

360度映像への没入感とか、もっと前には立体視(左右微妙にずれた映像をみることで、被写体が立体的にみえる)みたいなものが注目されているが、ヘッドマウントディスプレイならではの視聴体験ということを考えた時に、そもそも左右異なる映像をみせることが特異点なのにも関わらず、現実のものに近づけようとするのはもったいないと思っていた。むしろ実写映像を現実の模倣として扱うこと自体を疑うべきではないかと考えた。

混合する光の実験では、左右で違う人の顔を写したり、色味の違う映像を再生したり、片方だけ逆再生にしたり、と色々行っていた。
総じて言えることは、人によって、視力などの要因によって、見え方が違うってところに人間味を感じるというか。
普段、僕らが行なっている視るという行為について、もう一度考えるための試作のうちの1つとして行っていた。

現実は現実、映像は映像、映像を現実の模倣媒体として扱うのではなく、映像ならではの面白さに着目した作品を作りたかった

平瀬さんは、自身が制作している「表裏で物を見ることの関心」を実際の目で体験できる形に起こせる構造なのではないかと考え、杉山さん本人から了承を頂いた上で使用されています。

特にHMDの使い方の独自性(左右の目に異なる映像を出力して見せる)自体は、彼の作品からきているのだそう。

なるほど、そういう経緯を経て、この作品が成り立っているのですね……。

HMDから見えるのが「HMDを覗き込んでいる自分の姿を、表と裏から撮影されている映像が重なっている状態」であるということ、そしてそれが、平瀬さんの意図する「2つの映像内の物体の位置が重なり合うことで不透過の部分が現れる。この不透過の部分を「メディア空間における彫刻」とし、メディアを通してモノを見ることを再考させる」という状態を完璧な状態で出現させていて、その彫刻空間に「私自身」がいる、という事実を突きつけられた時、私はハッとしました。

「完璧じゃないか……!」と。

普段HMDを「VR映像を見るデバイス」としてしか捉えていなかった自分として、この発想は到底思いつきませんでしたし、杉山さんの作品からもたらされたインスピレーションを経て到達した、平瀬さんの作品に込められた「想い」がダイレクトに自分の感覚を突き抜けていったことに、驚きを隠せなかったのです。

本当に、素晴らしい展示を拝見させていただきました……!

そんな平瀬さん、2019年3月15日(金)~20日(水)の日程で、東京・新宿眼科画廊さんにて個展「差異の目」を開催されます。

お近くの方はぜひ!

箕浦 慧「ダンスパフォーマンス「ἔθος」」

本日はもうお一人、箕浦慧さんの発表をご紹介しましょう。

箕浦慧さんはバレエダンサーとして活躍。ロシア国立ペルミバレエ学校を卒業後、2009年~2012年までモスクワシティバレエ団に所属されていました。

その後ドイツ・ベルリンに拠点を移し、アメリカ・フランス・ドイツなどでフリーランスの舞踏家・俳優として活動していた時にIAMASの存在を知り帰国、IAMASに入学した、という経歴をお持ちです。

今回の研究発表であるダンスパフォーマンス「ἔθος」は(エートス)と呼びます。48分に及ぶ舞踏作品で、メディアテクノロジーを織り交ぜた内容になっている、とのこと。実際に拝見させていただきましたので、まずはその模様をお届けしましょう。

こちらが開演前の様子。目の前の白い空間にはプロジェクターによって映し出された方眼が写り込んでいます。写真右にいる箕浦さんが、観客に対して劇中に使用する「装置」についての説明とデモンストレーションを行っているところです。

私はこの光景を見て、「お! プロジェクションマッピングか!」と思ったのですが、実際に展開された目の前の世界がそれだけにとどまらない、とても不思議で魅力あふれる空間でした!

まずはダンサーさんによるコンテンポラリーなスタイルのダンスが始まりました。真っ白な空間の中、とてもプリミティブな音響と共に厳かなダンスが繰り広げられていきます。

箕浦さんも参加し、3名による群舞が続いていきます。

しばらくすると、プロジェクターの光源が動き出していくと共に、ダンサーの動きに合わさっていくようにうごめく「影」が登場しました。この影は明らかにプロジェクターが投影しているもの。いよいよテクノロジーとの「融合」が始まったようです。

群舞が進んでいくに連れて、先程の「装置」が登場します。観客が装置のセンサーに指を触れると、指から観客の脈拍を検知し、その脈拍が空間内のSEを奏でる、という仕組みになっていて、空間全体が人間の「鼓動」に包まれているかのような感覚を覚えました。

そして、先程現れた「影」は、空間が暗転した後に……

人間の形となって出現します。いわば3Dポリゴンで描かれた「もう1体のダンサー」の登場です。よく見ると、「もう1体のダンサー」は点の集まりのような模様で覆われています。「彼 or  彼女」は他のダンサーに劣らない優雅さを湛えた舞踏を繰り広げながら、いつしか闇の中へ消えていきました。

シーンが変わり、空間全体に点描のマッピングが投影されます。すると、そこに登場したダンサーの動きに合わせて、鏡像のように点の集まりが蠢き出します。それはまるで、一人しかいないはずの空間に二人のダンサーがシンメトリーに舞踏をしているよう。

ここで私はあることに気づきます。先ほど闇の中に消えていった「点描のような姿をした3DCGのダンサー」が、今あらためて登場している……、ということに!

人間のダンサーが二人になり、さらに目の前の空間がカオスに包まれていきます。そしてその後の暗転の先に現れたのは……

プロジェクションマッピングの技術により奥行きが表現された空間の中を艶やかに踊る「もう1体のダンサー」の姿でした。

箕浦さんと「もう1体のダンサー」のセッションでは、再び空間が点の集合体で覆われていきます。存在しないダンサーと、箕浦さんの二人が舞う空間、そしてアンビエントとも、ミニマルとも、ノイズ・ミュージックとも違う独特のBGMが、唯一無二の空間を私達に掲示し続けていきました。

最後は、ダンサーが無造作にばらまいていく紙吹雪と、その紙吹雪に彩りを与えるようなプロジェクション・マッピングの中でのダンス。緑と赤を基調にした、緑葉と紅葉を想起させる空間の中で繰り広げられた舞は、どことなく儚げで、黄昏のような哀愁すら感じるほどに、素敵な空間でした。

終演後、箕浦さんはこんなお話をされていました。

箕浦 去年の6月くらいから作ってきました。「そもそも舞踊に『デジタル』を使う意味はあるのか」というのをずっと考えていて、ただ体の表現を蝕んでしまうようでは使う意味がない、とずっと思っていたんですが、壁から飛び出てくる表現といった「物理的にできないこと」や、「デジタルテクノロジーが人と人の関係を変えてくれる」というような意味合いを持って、この作品の制作に乗り出すことができました。

僕はずっとロシアでバレエをやっていて、11年ヨーロッパで生活してから(日本へ)帰ってきたんですけど、(今回の発表が)これからどのようにして自分なりに舞踊を続けていったら良いのかを確認する良い機会にできたかな、と考えています。

「仮想空間において3Dポリゴンのダンサーに振付けを行い、それを映像として現実空間に再帰させ実際のダンサーと共演させる」(IAMAS公式サイトより)という挑戦は、プロジェクション・マッピングという技術の枠を大幅に超えた、「デジタル」と「アナログ」、「テクノロジー」と「人間」という2つの対になる関係性にまで踏み込んだ、非常に貴重なコンテンポラリー・ダンスの表現となって昇華されていました。

ただ闇雲に取り入れるのではなく、箕浦さんの中でテクノロジーを咀嚼した上で表出されるというプロセスは、並大抵のことでなかったのだろうと推察します。その苦悩や思いがこの作品となって結実していて、それを「現実と仮想現実の間に生まれる新たな身体に祝福を込めて」(IAMAS公式サイトより)という境地にまで到達されたことに、ただひたすら感嘆する他ありませんでした。

箕浦さんが今回の発表を超えて、今後どのようなトライをされていくのか。今からとっても楽しみです!

次回は、IAMASにて行われている各プロジェクトについてご紹介してまいります。お楽しみに!

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取材協力:情報科学芸術大学院大学 IAMAS事務局

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