岐阜県にあります大学院大学、情報科学芸術大学院大学[IAMAS]が2月21日から24日までの日程で開催しました、第17期生による修了研究発表会および2018年度のプロジェクト研究発表会「IAMAS 2019」。各研究発表・展示についてご紹介しています。今回はその2回目です。
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情報科学芸術大学院大学「IAMAS 2019」へ行って、メディアアートの可能性を体感してきました!(2・作品紹介その1)
岐阜県にあります大学院大学、情報科学芸術大学院大学[IAMAS]が2月21日から24日までの日程で開催しました、第17期 ...
小濱 史雄「displayed_scape」
小濱史雄さんの展示は、オリジナルの映像をモチーフにしたインスタレーション。まずは小濱さんが実際にアップされているYouTubeの動画を御覧いただきましょう。
「display symbol mapping」と名付けられたこの映像では、我々がスマホやPCなどでよく目にする「UI / UX」が現実の世界に投影され、溶け込んでいく様が映し出されます。小濱さんはIAMAS公式サイトに
ディスプレイを窓枠と見立てたり、ディスプレイに映り込んだ表象を情報の海と例えるなど、我々はその先に風景を求めてしまう。 ディスプレイの内側と外側の環境にある記号や要素を置き換える行為を通して、自由に画面の内側と外側を往復する現代人にとってのディスプレイと風景の関係について問い直す作品である。
IAMAS 2019公式サイトより
との言葉を寄せています。つまり上のYouTubeの映像は、いわば「情報が通り抜ける枠」であり「窓」なのですね。
メイン会場の一番奥、一段と照明が落とされた空間に浮かび上がる小濱さんの映像は、どれもが「既視感」と「違和感」の2つが同居した内容になっています。個人的に目を引いたのは「Google ストリートビュー」の3D映像に小濱さん自身が溶け込んでいる映像のインスタレーション。「その発想はなかった!」と膝を打つことしきりでした。
小濱さんとお話させていただきましたが、「映像の配置を考える上で『目線』を非常に意識しました」と仰っていました。ランダムに配置されているように見えるのに、実際に映像を眺めていると、その位置にそこはかとなく意味を見いだせるような、不思議な感じです。
とっても独創的で、「他の作品を拝見したい!」と心の底から思えるインスタレーションでした。
後藤 祐希「ミュージアム・グッズ、買って帰って使う。ってどういうこと?」
後藤祐希さんの展示は、「ミュージアムマーケティング」をテーマとしたもの。
皆さん! 美術館へ足を運んだ時に、なんかグッズって買いませんでした? 筆者はとある展示でいたく感動してしまって、ポストカードを買ってしばらく自宅に飾っていたことがありますけども、後藤さんはこういった「美術館において個人が鑑賞をした後にミュージアム・グッズを購入し使用する」という一連のプロセスから、鑑賞行為周縁にある鑑賞者の創造性を促す可能性を追求した研究を行ってきました。
展示で展開されたのは、来場者が参加するインタラクティブなインスタレーション。来場者個人個人の持つ「ミュージアム・グッズ購買、使用経験」について、六角形をベースにしたパーツを組み合わせることで視覚化し、アーティスティックなサンプルとして増殖させていく、という構造になっているんですね。
上の写真の白い六角形がベース。それに自分が買ったアイテムを書き、そのグッズを「どこで」「どの場所に」「どのように」「他にどんなものを併用して」使っていったのかを、三角形やひし形のパーツを組み合わせてビジュアル化していきます。
こうして組み上がったパーツを壁に貼っていくことで、来場者が「ミュージアム・グッズ」に対してとった行動がインスタレーションとして増えていく、という感じ。
後藤さんは、美術館では必ずと行っていいほど販売されている「ミュージアム・グッズ」がどのように買われ使われていくのかを調べていく過程で、そのあまりの「ミュージアム・グッズに関する購買、使用に関する資料文献の少なさ」に気づき、ここに着目したそうです。
こうして見ていると、なかなか意識することのない「ミュージアム・グッズ」というものにも様々なストーリーがあることがよくわかります。パーツを使ったインスタレーションに昇華させることでインタラクティブ性を生み、来場者に興味を抱かせることに成功していて、とても興味深く拝見させて頂きました!
荏原 洋夢「DIEGESIS DESIGN -左利きの場合」
今回最後は荏原洋夢さんによる「DIEGESIS DESIGN -左利きの場合」です。
いやー、荏原さんの展示、とっても親近感を持ちながら拝見させていただきましたよ。何を隠そう私筆者、左利きなんです!(ハサミと書道だけ右手)
荏原さんは公式サイトにて、
現代において問題は細分化され、問題自体を理解することが困難になった。 多くのデザイン手法は問題を表層的に変化させているに過ぎず、数多の問題は既に解決不能である。 問題解決のための第一歩として問題叙述型デザインアプローチを提唱し、その試行を左利きの直面する問題を例に実行した。
公式サイトより
との言葉を寄せています。
人間という生物は画一的なものではなく、人それぞれがそれぞれで何らかの「問題」を抱えています。この構造内で起こるのが「マイノリティ」と「マジョリティ」。とある問題があるとして、その問題に直面している人が「マイノリティ」であるのに対し、それ以外の人(問題を抱えていない人)は「マジョリティ」になる、という構造です。
この構造によって鍵となる「問題」は、得てして「マジョリティ」の人に理解してもらうのが難しいものです。そこで荏原さんは、この問題を5段階の手順を通して叙述することで、理解のための解決を目指す試みを行っています。
今回そのテーマとして荏原さんが選んだのが……
「左利き」。荏原さん自身が持っている「左利き」の問題を例に取った「問題叙述型デザインアプローチ」を行っています。その5段階とは、
- 問題の要約
- 要素の設定(クラスタリング)
- クラスタに共通する問題を推測
- 物理的な問題をクラスタごとにパラメトリックに解決
- 機能する虚構の掲示
まず問題の全体を整理しつつクラスタ解析を行い、ここで得られた解析結果を元に共通する問題を推し量ります。ここで解析時に設定した「軸」に着目し、物理的な解決策として「文字の回転方向の変換、反転、センタリング」を設定します。これを元にデザイニングを行っているんですね。
展示されていたMacでは、実際の文字を中心で鏡像化するツールが動作していました。また、このような考え方をもとにしたタイポグラフィックデザインが展示されています。
今回荏原さんが掲示した左利きという「問題」は、特に文字を記述する、という行動において大きな影響を与えます。例えば、左手で筆や万年筆で文字を書くのは非常に困難です。実際に万年筆を左手に持って文字を書こうとすればよくわかりますよ。
もちろん左利きが抱える問題はこれだけではないのですが、それを「デザイン」という視点で視覚化していく一方でクラスタ解析まで行うことで「解体」する、という試みがとっても面白く感じました。
特に私自身が「左利き」であるだけにこの視点がとっても身近なものに感じる一方で、あくまで左利き、という「問題」を客観的に解析していくというプロセスとの「ギャップ」が新鮮に感じられたのも、「面白い!」と感じた一つのポイントかも知れません。
荏原さんのサイトでは彼自身が行っている様々なデザインワークが掲載されていますので、そちらもぜひ。
次回も修了生の皆さんの展示をご紹介します。お楽しみに! それと!
本日、平成30年度 情報科学芸術大学院大学学位記授与式を開催いたしました。修了おめでとうございます! pic.twitter.com/84tj6uV8KW
— IAMAS公式 (@iamas_info) March 7, 2019
修了、おめでとうございます! 皆様のご活躍を心より祈念いたします!
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情報科学芸術大学院大学「IAMAS 2019」へ行って、メディアアートの可能性を体感してきました!(4・作品紹介その3)
岐阜県にあります大学院大学、情報科学芸術大学院大学[IAMAS]が2月21日から24日までの日程で開催しました、第17期 ...
取材協力:情報科学芸術大学院大学 IAMAS事務局