世の中に燦然ときらめく近未来フィクションと、VR・AR・AIなどとの親和性について語る「フィクションにおける」シリーズ。今回は名作「マトリックス」です。
「マトリックス」監督 ウォシャウスキー兄弟
コンピュータプログラマーとしてニューヨークの企業で働くネオ。凄腕ハッカーという別の顔を持つ彼は、最近 “起きてもまだ夢を見ているような感覚”に悩まされていた。そんなある日、自宅のコンピュータ画面に、不思議なメッセージが届く…「起きろ、ネオ」「マトリックスが見ている」「白うさぎの後をついていけ」。正体不明の美女トリニティーに導かれて、ネオはモーフィアスという男と出会う。そこで見せられた世界の真実とは。やがて、人類の命運をかけた壮絶な戦いが始まる。
Amazonより
シミュレーション世界「マトリックス」に閉じ込められて機械に支配されている人類という未来。それに抗するレジスタンス。現実とシミュレーション世界を行き来しながら戦う主人公。
シミュレーションの世界において数々の超現実的な現象を起こし続ける主人公の様子を、華麗な映像美で表現しています。ハリウッド映画ならではの力業で大成功した作品です。
製作のジョエル・シルバーが「監督のウォシャウスキー姉妹が私に『攻殻機動隊』を見せて、俳優による実写で映像化したいと言った」と明言している
とありますように、オープニングの緑地に文字がたくさん降りてくるカットや、頭の後ろに電脳接続のケーブルがあったり……というくだりは『攻殻機動隊』へのオマージュ。アクションシーンなんかも似ています。
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フィクションにおけるVR描写について、GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊 監督/押井守 脚本/伊藤和典 原作/士郎正宗
攻殻機動隊 原作漫画 初出「ヤングマガジン海賊版」1989年5月号。 士郎正宗のサイバーパンクの近未来ポリスアクション。主役が全身サイボーグの刑事で、有線接続で電子ネットワークに接続してサイバー犯罪の ...
ただ、シミュレーション世界へ接続している場合の「科学考証」への対処に大きな違いがありました。
- 攻殻機動隊の場合は電脳接続している主体があくまで肉体なので、攻撃を受ける前にケーブルを切断すれば攻撃を受けません。そして、そのために「攻勢防壁」というケーブル間に設置するダミー端末を用意して、ハッキングなどを防いでいます。
- マトリックスでは電脳接続している間、つないでいる人間の主体は電脳空間にある、という設定になっています。マトリックスから現実の空間へ帰還するまでにケーブルの接続を切ってしまうと、切断された人間は死亡してしまう……という描写が効果的になされているんですね。
「マトリックス(映画第1弾)」において、最終的に主人公のネスは目に見えるものすべてがマトリクス(数字の行列)に見えるようになり、結果として「マトリックス」上にて原理不明な無敵の力を行使します。
なぜそのようなことができるか、この第1弾で具体的な説明はありませんでした。
マトリックス リローデッド
あと数時間もすれば、人類最後の都市ザイオンは、人類滅亡をプログラムされた25万のセンチネルに侵略されてしまう。だが、モーフィアスの信念に揺るぎはなかった。オラクル(預言者)の預言では、救世主がマシンとの戦いに必ず決着をつけてくれる---人類の未来と希望は、救世主として覚醒したネオに託された!ネオ、トリニティー、モーフィアスの3人は驚異の肉体と武器を携え、この戦いに終止符を打つべくマトリックスへ乗り込む。ネオはマシン軍団に包囲されたザイオンを救うべく、その超人力を全開させた。
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で、その続きとして制作されたのが「リローデッド」です。
この作品において、ザイオン(現実の人間が住む世界)の逼迫している事態とそれに対抗する人間たち、預言者(オラクル)により主人公のネオが「救世主」であることを示唆するストーリー、そして、マトリックスを創造した「アーキテクト」により、マトリックスを取り巻く冷徹な事実が明らかになるとともに、ネオがなぜマトリックス内にて超人的な力を発揮できるのかが明快になるわけです。
マトリックス レボリューションズ
“マトリックス”3部作、衝撃の最終章。ネオ、トリニティー、モーフィアスらはマシンとの壮絶な戦いの中で、人類の勝利と滅亡の瀬戸際に立たされていた。
ネオは人類がいまだかつて踏み入れたことのない領域=マシン・シティーの心臓部に入り込む。そして1秒毎にパワーを増し、マシンにさえも制御不能となったスミスと最後の対決を迎えた・・・。Amazonより
そしてこちらが完結編の「リボリューションズ」。
暴走し多くの人間を自分に取り込んで強大な力を獲得したエージェント・スミス。スミスによって引き起こされたザイオンに迫る危機を回避するため、マトリックスの中心部である「ソース」に向かって最愛の人トリニティと進むネオ。そして、マシン・シティーの最深部に登場したデウス・エクス・マキナとネオが最後の取引をします。共通の敵となったスミスを倒す代わりに、ザイオンへの侵攻を止めてくれ、と。
三部作を通じて描かれているのは、機械が知性を持ち、その結果として「マトリックス」を構築して人間を支配する、というディストピアです。「リボリューション」ですら14年前。「マトリックス」に至っては18年も前の作品になるわけですが、AIがー、ARがーと騒いでいる現在の状況を踏まえてこの三部作を見ると、よりリアリティを伴って迫ってくるのがわかります。
『攻殻機動隊』と共に、近未来SFを回顧するのにうってつけの大作です。一度ご覧になった方もこの機会によかったら、ぜひ!