コンピュータ科学分野の国際学会(ACM)の分科会「シーグラフアジア2021(SIGGRAPH Asia 2021)」が14日から17日までの日程にて、東京国際フォーラム(リアル開催)、及びオンラインのハイブリッドにて開催されました。VRonはこの度メディアパートナーとして、4日間みっちり取材させていただきました。
さて、本日から展示会会場(ホールE)で紹介されていた各発表・展示について順次ご紹介してまいります。今年は「アートギャラリー」から!
今年度のArt Galleryテーマは「未来の儀式と共鳴」。チェアをアルスエレクトロニカ・フューチャーラボ共同代表・監督の小川 秀明さんがお勤めになったこともあり、非常にアルスエレクトロニカっぽいといいますか、前回(3年前)と比べてよりインタラクティブ性や先端技術を応用するタイプの展示採択が多かったようにお見受けしました。では、まずは招待作品から。
祝祭のデジタルツイン(招待作品)
招待作品である「祝祭のデジタルツイン」は、本部門のキュレーターである市原えつこさん、メディアアーティストの渡井大己さんらによるものです。2019年に「仮想通貨奉納祭」にて公開された「サーバー神輿」を中心に、物理空間・バーチャル空間・AR空間の3つの空間が共鳴し合いパレードを行う、というインスタレーションになっています。
このお神輿、サーバー神輿というだけありまして中にサーバが入っており、ファンがガンガンと回っております。2019年の展示の際にはこのサーバめがけてビットコインを「奉納」することにより、その場でワッショイワッショイと儀式が始まるという趣向でしたが、今回は……
このタブレット端末から擬似的に「投げ銭=奉納する」を行うという形で行われました。端末を通じて「投げ銭」を行うと、神輿から自動音声合成によって、まるでプロ野球の実況ばりに祭りを囃し立てるアナウンスが鳴り響く他、
このスマホを通じてARでもアバターが動き出してお祭り騒ぎを行う様子が同期し、祝祭を盛り上げます。
これが実際に投げ銭が行われ、仮想空間上でワッショイワッショイと祝祭が行われている様子です。遠くの方神輿を担ぎまくってますね!
また、投げ銭の額に応じて、
バーチャル空間上に投げ銭が行われたことを示す石碑が出現する、という趣向も凝らされています。まさしく3つの空間で一斉に祝祭が行われるさまは「共鳴」というテーマそのものです。
この投げ銭は仮想通貨をモチーフにして実施するため、投げ銭そのものや石碑などの「奉納への貢献」をブロックチェーン上で永続的に記録し、人々の共同体への帰属意識を醸成させ、パンデミックにより失われた祝祭性やコミュニティを再構築する、というインスタレーションとして表現される仕組みになっています。
この展示めっちゃ刺さりました。自動合成によって鳴らされる実況の声が細やかなチューニングを施しており、1回聞いただけではとても自動出力されたとは思えなかった、というのも面白かったのですが、今のニューノーマルという社会情勢やブロックチェーン・仮想通貨へのアプローチ、それに「投げ銭文化」とのどぎついオーバーラップがかなりガツーンと響いてきましたね。今、配信者(YouTuber、ストリーマー、VTuberなど)ベースの動画系エンタメシーンで投げ銭システムが経済システムの要として大きなうねりを描いている様と、祝祭がお互いに鳴り響きあい、重なり合っていくかのようです。
これがArt Gallery会場一番手前、まさしく「ヘッドライナー」として配置されたことにものすごく納得がいきます。今回のテーマをまるっと体現するような、素晴らしい展示でした。
From our deceased bodies flowers will grow, we are in them and that is eternity.(シドニー工科大学)
こちらはシドニー工科大学のWade Marynowskyさんによる作品。Artbreederというツールを使用しています。現在画像認識系技術でホットな分野であるGAN(Generative Adversarial Netwroks)の中でも1,400万枚以上の視覚データベース「ImageNet」で学習を行う「BigGAN」(DeepMind社)を使用し、Portrait AIエンジンに地元の花の写真を意図的に入力、人間の写真とのモーフィングアニメーションを制作しました。
一番のポイントは、人間の顔がはっきりと表示されないようにGANを走らせている点。これによりタイトルである「私たちの亡骸から花が育ち、私達はその中にいて、それは永遠なのだ」というテーマのもと、「顔が表示されない花の動画の中に人間の面影を垣間見る」というインスタレーションを成立させている、と言えるでしょう。
非常に引き込まれる映像でした。GANを活用した作品は数多く見られますが、この作品は非常に太いメッセージ性といいますか、明示してはいないけれども、映像の中に人間と自然のライフサイクルという重いテーマを効果的に見せているなあ、という印象を強く感じた作品です。
Goldfish Architecture: Therapeutic Urban Aquaponics(東京大学)
Goldfish Architectureは東京大学のチームによる作品。植物や水性ペットの治療効果を利用して、心のこもった持続可能な生活の未来を提案する、デジタルで拡張された機能的なヴァナキュラー建築としてのインスタレーションです。
和のテイストが十二分に感じられる作品にはいくつもの水槽が設置されており、その中ではたくさんの金魚が優雅に泳いでいます。この水槽では遠隔での管理が可能な2つのアクアポニックスシステムが組み込まれており、かつ仮想環境上にもプロトタイプを構築しデジタルツイン環境を構築する、という立て付けになっています。
アクアポニックスとは、水産養殖の「Aquaculture」と、水耕栽培の「Hydroponics」からなる造語で、魚と植物を同じ手法で育てるシステムのこと。基本原理は、水棲生物の糞尿及び残餌に由来する魚毒性の強いアンモニアや亜硝酸を、微生物によって魚毒性の少ない硝酸まで硝化することで、閉鎖環境の中で水棲生物を長期間生存あるいは増殖させます。時間の経過とともに硝酸が水中に蓄積してくるので、その硝酸肥料として利用できる果菜を用いることで、水産物と農産物の両方を生産しようとするのがアクアポニックスの大きな特徴です。
さて、そのデジタルツインなのですが、こちらのサイト「https://siggraphasia2021.t-ads.org/」で3Dモデルを見ることができます(展示は終了しているため、リアルタイムなデータは反映されていません)。展示期間中ではこのサイトでも展示を遠隔で見られるようになっておりました。
アクアポニックスを題材にした、非常に大掛かりな作品でございました。その存在感は「祝祭のデジタルツイン」に負けず劣らず、って感じ。今後の展開があれば、もう一度じっくりと見てみたいですね。
というわけで、こんな感じで各作品をどんどんとご紹介してまいります。次回もお楽しみに!
取材協力:「シーグラフアジア2021(SIGGRAPH Asia 2021)」運営事務局