SIGGRAPH Asia 2021 TOKYO コラム ニュース

SIGGRAPH Asia 2021 TOKYO取材レポート(6・Art Gallery 2)

コンピュータ科学分野の国際学会(ACM)の分科会「シーグラフアジア2021(SIGGRAPH Asia 2021)」が14日から17日までの日程にて、東京国際フォーラム(リアル開催)、及びオンラインのハイブリッドにて開催されました。

只今各発表・展示について順次ご紹介しております。本日は「アートギャラリー」の後編です。

The Tides Within Us(イギリス・ドイツ)

The Tides Within Usは、最先端のMR技術を活用し、アート・科学・テクノロジーを横断しながら人間の感覚の限界を模索するプロジェクトです。主導しているのは、イギリスのマシュマロ・レーザー・フィースト(MLF)とドイツのフラウンホーファー・デジタル医学研究所 MEVIS

こちらはアルスエレクトロニカのサイトにて公開されているティザー映像。MEVISによるデジタル医療の知見と最新の臨床MRスキャナを使い、「心臓血管系を通る酸素の流れ」をトラッキングしアートに落とし込む、という気の遠くなるような解析・そしてビジュアライズ化を行っています。

© SIGGRAPH Asia 2021

2020年10月にヨークアートギャラリーで開かれた「HumanNature」の一部として最初に発表された後、2021年の夏からは、「Observationson Being」—英国のコベントリー文化都市2021のコベントリーチャーターハウスヘリテージパーク全体に広がる、没入型オーディオビジュアルアートワークのシリーズとして制作が続けられています。

こちらが昨年のヨークアートギャラリーにおける展示の様子です。こちらをご覧いただけると、本展示の細やかな内容が見て取れるかと思います。人間はどこで終わり、そしてどこから始まるのか。人間という生物そのものを今できうる限りの技術を駆使して「俯瞰」とようとしているような、そんな思いを感じました。

Siren(中国・北京服装学院)

こちらは北京服装学院を拠点にメディア・アーティストとして活動している高文謙さんの作品。彼が2019年にフランスで開催した個展「landscape of pixels」で展示したものの一つです。3Dスキャンを使い一人の女性の表情を数多くスキャンし、「Virtual Singer」というソフトで作られた電子音声(我々が知っているVocaloidなどのアプリを使っているのか、その詳細は公開されていません)に合わせて表情を変えていく、という形になっています。

高さんは、古代ギリシャ神話に出てくる「セイレーン」に擬え、この将来に「セイレーン」のように歌声で人々を惑わすようなプログラムが登場するのだろうか、と問いかけます。ヴァーチャルな世界で過ごすことが当たり前になった未来にもこのような「怪物」が現れるかもしれない……。現在のボカロシーンともクロスオーバーするような作品です。

在别处/ Escaping to another(中国)

Art Gallery最後はコチラ。こちらも中国・北京で活動しているアーティスト、Biin Shenさんの作品です。

この作品は、コロナウイルス感染症が流行する中で作成されたライブストリーム。暗い空間に吊るされたスクリーンで構成され、さまざまな都市の空をリアルタイムで表示し、機械と人間の想像力の複合現実の風景を構成する、というインスタレーションになっています。

キュレーターの市原えつこさんも制作に協力されており、こんなツイートをされています。本来は天井にディスプレイを吊り下げ、それを見上げながら様々な都市の空を共有する、というコンセプトになっているんですね。

この青空がいつ、どこの空なのかは明示されませんが、その空の下でなっている自然音がスピーカーによって流れ、擬似的に空の下にある空間を共有します。Biin Shenさんはこの手法を「古典的なメディアアート・インスタレーションへの回帰」であるとし、また「中国ではインスタレーションアートの主な消費形態が『自撮り』になる傾向や強くなっている。鑑賞者は自撮りのアプローチを捨てて携帯電話を置き、改めて頭を上げて考え始めなければならない」としています。

なるほど、だからこの展示を見て筆者は「ホッとした」感情を覚えたのかもしれません。Art Galleryにおける多くの展示の中で、この作品が一番ミニマルな印象を強烈に感じ、その上で「空」の持つ力といいますか、そのような強さを重ねて感じた上で、結果「ホッとした」のが不思議でした。考えさせられましたねえ……。

 

というわけで、Art Galleryについてはここまで。次回からは「XR」のご紹介に参ります。お楽しみにー!

取材協力:「シーグラフアジア2021(SIGGRAPH Asia 2021)」運営事務局

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