こんにちわこんばんわ。
VRにまつわる歴史をつづっていく「VRヒストリー」(いつの間にやら連載っぽくなってるけど気にしない)。
今回ご紹介するのは、こちらです。
(写真はWikipedia)
VRの世界に燦然と輝く黒歴史の一つ! 失礼!
任天堂が1995年に発表した据え置き型ゲーム機「バーチャルボーイ」(Virtual Boy)です。
任天堂でVRといえば、こっちでしょ!
ソニーがPlayStation、セガもセガサターンを発表し、据え置き型による新たなるフェイズのゲーム機戦争が勃発した矢先の1995年、任天堂が発表したのがこの「バーチャルボーイ」でした。
解像度は384×244ドットに赤色の4色グレースケールというスペック。当時の主力製品だったゲームボーイと比較するとちょうど縦横のドットが倍くらいだったんですね。
本体裏側(写真はWikipedia)。
こののぞき窓から覗いて、立体視のゲーム画面を見ながらプレイするというスタイル。
前回の記事を見て頂ければお分かりかと思いますが、Appleの「QuickTime VR」と同じころに誕生したこのバーチャルボーイも、同時のゲーム市場においてはめっちゃくちゃ意欲的な筐体だったことがわかります。
77万台販売するも、プレステ・セガサターンには勝てず、95年いっぱいでソフトリリース終了
このバーチャルボーイ、これまで様々な記事が出ております。例えばWikipediaでもソースになっているGIGAZINEさんのこれとか。
世界中で売れなかったゲーム機ワースト10
http://gigazine.net/news/20070507_worst_selling_consoles/
こちらにも書かれております通り、その販売台数は世界でも77万台。日本に至っては15万台のみと奮いませんでした。リリースされたゲーム数も日本でわずか19タイトル。1996年に入ると新タイトルのリリースそのものがストップし、いつしかバーチャルボーイは消えていきました。悲しい……。
いろいろと原因とか、理由は各記事で書かれていますが、私は「相手が悪かった」と思っています。
だって相手がプレステっすよ、プレステ。累計1億台を超えたモンスターマシンです。セガサターンだって世界で1000万台は売りましたから、かなり健闘した印象。
当時の私もこのバーチャルボーイのことは見聞きしておりましたが、やっぱり周りがやれプレステだ、サターンだと騒いでいた時期です。そんな中で私が発売当時に感じた、バーチャルボーイへの第一印象は「なんじゃこりゃ」。それも、あんまり理解できない感じの「なんじゃこりゃ」でした。QuickTime VRの時はスゲー!とか言ってたくせに私!
3Dの凄ささえ、伝える手段があったなら……
当時3Dといえば、赤と青でおなじみの「アナグリフ式」、偏光メガネを使った「直線偏光フィルター式」のメガネをかけて映画を見るー、的な印象が強くて。
子供のころからつくば科学万博とかで3Dメガネかけて立体映像体験!みたいなのが大好きで、でも、終わった後に家でそのメガネをかけても飛び出てこないから、「なんだよー」つって途端に関心を失ってみたり、そんな繰り返しをしていました。
こんなやつ(写真は偏光式3Dメガネ)。
だから、バーチャルボーイって聞いても、「どーせ飛び出る映画みたいなもんでしょー?」なんつって、真剣に追いかけなかったんですよね。おもちゃ屋でバーチャルボーイを体験する機会はあったと思うんだけどなー。スルーしてたなー。
でもVRのお仕事をしてると、今になってよくわかることがあるんですよ。
バーチャルボーイがすごかったのは「没入感」獲得の先見性だった
上の写真の通り、バーチャルボーイは赤い本体にある2つの窓から覗き、中のディスプレイにて赤く光る立体視画像を見ながらプレイする、というものでした。
これはつまり、外の光景や他に目に入ってしまうものをすべて排除し、ゲーム画面だけに集中できる環境になっていたことを意味します。
これって、「没入感」にほかなりませんよね?
これまでの歴史の中で、3DやVRといったものに対するアプローチは様々に行われていました。個人的な意見になりますが、今、このタイミングで「VR元年」と呼ばれるに至ったのにはたぶん理由があって、その中には多分「没入感の凄さ」が含まれているはずなんです。
顔を向ければ映像が完璧についてきて、さらに立体視や360度ビューとなって、現実と同じような映像が「すべての視界に広がる」。だからその映像に集中できるし、そこから「目の前の世界に自分が存在している感じ」がする。我々はその尺度として「没入感」という言葉を使って、よりリアルな世界を構築しようとしています。
そんな没入感の獲得を、20年も前の、まだテクノロジーが全然追いついていなかった時代に、任天堂は、横井軍平さん(※)は、赤色グレースケール4色の中で果敢に求めていったわけです。
いやホントのところはわかりませんけど、でも、今の自分の立場なら掛け値なしに「凄い!」って思えます。
思えません?
このあと任天堂は16年後の2011年、「ニンテンドー3DS」にて再び立体視の世界にトライすることになります。結果、全世界で6000万台の売り上げを記録。見事なまでのリベンジです。
そして今。
任天堂の君島達己社長はブルームバーグのインタビューに答え、次世代機として発表された「Nintendo Switch」のVR対応について
「If you asked as if this might be possible in the future, certainly we can't say no.」(将来的に可能性があるか否かを尋ねられれば、「ない」とは言えません)
と語り、否定しませんでした。
Appleと同様、VRについては口を開いていない任天堂。どんな手を出してくるのでしょうか。楽しみですね!
※ 横井軍平 ……ゲームボーイ、バーチャルボーイなどの開発者。任天堂を大企業に押し上げた立役者であり、ゲーム業界では英雄的存在の一人。「枯れた技術の水平思考」で知られる。