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国文学研究資料館と凸版印刷、日本文化の多様性や魅力をデジタルコンテンツで再創造する共創プロジェクトをスタート

大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 国文学研究資料館凸版印刷株式会社は29日、国文学研究資料館が所蔵する日本文化に関する幅広い分野の資料をデジタル化し、そのデジタルデータを活用して日本文化の多様性と魅力を広く一般に発信する「日本文化に関する共創プロジェクト」の推進に関する合意書を締結しました。

今回VRonは「日本文化に関する共創プロジェクト」の記者発表会(於:NIPPON GALLERY TABIDO MARUNOUCHI)にお邪魔させて頂きました! このプロジェクトとVR・ARの関係性とは? 伺ってまいりましたよ!

歴史的資料を所蔵し研究する国文学研究資料館と、VRへ独自のアプローチを見せる凸版印刷による新プロジェクトとは

国文学研究資料館は、近世・近代を中心とした和書や屏風・絵巻物などの絵画資料を約17,600点、及び歴史資料を約52万点収蔵している大学共同利用機関法人です。取り扱う分野は文学、歴史、美術、観光など多岐にわたっています。

館長は東京大学名誉教授のロバート・キャンベルさん。コメンテーターとしてメディアにも精力的に出演されていらっしゃいますね。

国文学研究資料館では近年、所蔵資料のデジタルアーカイブを進めて行く中で、デジタル化した資料の利活用という点で新しい取り組みが求められていたそうです。

そんな中、印刷分野だけでなく、文化財におけるデジタルコンテンツ・VR / ARコンテンツ化について様々なアプローチを行っている凸版印刷さんとタッグを組み、新しい表現手法を用いた情報公開の実現を目指すべく本プロジェクトの推進に合意した、という次第。

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凸版印刷さんの取組についてはつい先日にもご紹介させて頂きました!

こちらが凸版印刷株式会社 文化事業推進本部長の矢野達也さん。

まずは記者会見の冒頭、「日本文化に関する共創プロジェクト」推進に関する合意書の調印式が行われました。その後、お二人による本プロジェクト紹介がスタート。

今回のプロジェクトでは、国文学研究資料館が持つ学術的知見と、凸版印刷が開発した大型オルソスキャナーなどを用いた高精細デジタルアーカイブ技術を融合し、同館の所蔵資料について、VR、ARなどの新しいデジタル表現を用いた情報公開の実現を目指しています。

具体的なポイントは3つ。

和歌や物語に込められた世界観を「現代に生きる価値」として再創造する「デジタルコンテンツ」の開発

国文学研究資料館には、日本における文化的側面において重要な文献が多数所蔵されています。

その中でも「和歌」や「物語」などの原本について、例えばただ「現代語に置き換える」というだけではなく、現在の新しい技術を織り込みながら現代人に直接訴えるコンテンツを開発していくとのことです。

まず第一弾として、扇面と和歌を組み合わせた作品「扇の草紙」を、歌意だけではなくその背景にある日本文化まで含めたデジタルコンテンツ化が始まっておりまして、2020年の実現を目標に活動が行われています。

デジタルコンテンツの可視化・コンテンツ化、そして活用と公開

また、国文学研究資料館が行う研究成果を凸版印刷の文化財デジタル化技術で可視化・コンテンツ化し、展覧会やWebサイトなどにて公開していくそう。

こちらの第一弾として、『紫式部聖像』(石山寺所蔵)をテーマとした高精細画像・X線画像を拡大表示するコンテンツを開発。今月10月15日(月)から12月15日(土)まで国文学研究資料館にて開催されています特別展示「祈りと救いの中世」にて展示しているほか、来月11月3日(土・祝)に国文学研究資料館が主催する「平成30年度『古典の日』講演会」(すでに定員につき参加申し込みは終了しています)においても使用するそうですよ。

デジタルコンテンツを用いた展示・イベントを開催

さらに! コンテンツを用いた展示・イベント「デジタル発 和書の旅」を実施。シリーズ化し、順次開催していくそうでございまして、現在公表されているのが以下の2つであります。

第1回:「ひるがえる和歌たち-扇と翻訳で古都にあそぶ-」

京都・有斐斎弘道館にて2018年12月9日(日)開催予定のイベント。上でご紹介した「扇の草紙」をテーマに和歌の魅力を紹介する、という内容です。

参加申し込みについては国文学研究資料館のこちらのページ( https://www.nijl.ac.jp/pages/nijl/introduction/index.html )からどうぞ。

第2回:「西国三十三札所の今昔(仮)」

清水寺などを含む西国三十三札所をテーマとしたトークイベントを、NIPPON GALLERY TABIDO MARUNOUCHIにて2019年2月上旬の日程で開催予定です。国文学研究資料館所蔵の『西国順礼道中細見大全』等を高精細アーカイブし、使用する予定とのこと。

今後の展開として、同館が所蔵する資料のデジタルアーカイブ化を進めていくとともに、デジタル表現技術を用いた公開手法について検討を重ねていきたい、とのことでした。

今年3月のイベントでの実践経験から、より深い文献理解のためのコンテンツ開発への手掛かりに

この後に行われたトークセッションでは、国文学研究資料館特任助教の有澤知世さん(上の写真一番右)も登壇し、これまでに国文学研究資料館と凸版印刷で実施してきた取り組みが紹介されました。

こちらは今年の3月に宮城県大崎市鳴子温泉で開催されました、「デジタル発和書の旅 湯とアートが鳴子で出会う」(2018年3月9日(金) 会場:早稲田桟敷湯)のチラシ。以下は国文学研究資料館が公式に公開しているイベントの内容を収録した動画です。

こちらが第1部。

第2部がこちらです。

特に第2部でフル活用されたのが……

こちらのiPadアプリ。左が凸版印刷にて高精細デジタルアーカイブ化された「東講商人鑑」(あずまこうあきんどかがみ)で、右がその現代語訳になります。

東講商人鑑」は、江戸の大城屋良助が発起人となり、東日本を中心とした旅行組合として結成された東講(あずまこう)が、安政2年(1855)に刊行した、いわば「旅行ガイド」みたいなもの。東講に加盟している宿やお店などが記されている他、写真にあるような「寸評」や「アドバイス」なども記されているんですね。iPad内のアプリによるインターフェイスを通じて、当時の文章をわかりやすく理解できるようになっています。

凸版印刷の矢野さん曰く、

矢野「デジタルアーカイブ化を進めさせていただく中で所蔵の作品を目にしてきたのですが、特にこの書物の時に驚かされたのが、当時から今で言うところの「るるぶ」ですとか、そういったような旅行ガイドみたいな書物が実際に書かれていて活用されていたということでした。これは、現代にも通じるものなのではないか、と。

私共としては、書物に描かれている当時の様子や息吹みたいなものを、これまで培ってきた技術を通じて、現代人にわかりやすく訴えかけられるようなデジタルコンテンツを作っていきたいと考えています。

今後はこのようなデジタルコンテンツ制作の手法としてVRやARといったものも視野に入るわけですが、あくまで重要視しているのは「どういった手法が皆さんへお見せするのに最適なのか」「どういう見せ方をすれば良いのか」というところです。それを解明するためにもあらゆる可能性を視野に入れながら、様々なアプローチを(国文学研究資料館さんと)一緒に探っていきたいですね」

(カッコ内は筆者による補足)

とのことでした。

共同でイベントを開催し、そのイベント開催のために行ってきた取り組みを通じて、デジタルアーカイブという仕組みを通じたサイクルが構築できる、としています。

アーカイブ化を行うことで文化財が資源化・公開されれば、その取り組みを通じて新たな文献が発見・発掘される。そしてその新文献をさらにデジタルアーカイブ化していくことにより、文化財の保存という文化遺産継承のサイクルがより加速していく……という循環ができる、とのことでした。

またロバート・キャンベルさんは、

キャンベル「例えば、江戸時代の古い本をよく見ますと、(その本に付着している)「手垢」がついていて、それが全て「外側の隅」に集中しているんですね。ここから、ページの下の隅から丁寧にめくっていることがその残っている(手垢の)汚れからわかるんです。こういった身体的な部分における私たち(国文学研究資料館)の知見というものも、今後のコンテンツ作りに活かせればと思っています。

研究の最先端を成果としてただ見せるだけではなくて、そこから分ったことを他の素材を織り込ませることによって、それをどういう風に、例えばそれが「言葉」なのか「映像」なのか、どういうものを情報として加味していくのか、どういう風に形にしていくのか……といったところが、今後の頑張りどころではないかな、と思います」

とお話しされていました。

記者会見を通じて強く感じたことは、文化遺産を後世へ残していくためには何が「最適解」なのかを、国文学資料研究のトップと印刷業界の盟主が本気で考えている……そのゆるぎない「使命」みたいなものでした。

凸版印刷さんが実践されている「トッパンVR」では、私たちが一般的にイメージする「VR」というよりも、あくまで「デジタルアーカイブ化の最先端技術」としての仮想現実表現を推進しています。であるがゆえに、今回の国文学研究資料館さんとのタッグは組むべくして組んだ、というべき「必然」だったでのはないかと思うのです。

その「使命」と「必然」が生み出す新たなデジタルコンテンツ……、もう期待しかそこにはありませんね! 今後の取組みと展開に、ガッツリと注目していきたいところです!

取材協力:凸版印刷株式会社 / 国文学研究資料館

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