SIGGRAPH Asia 2018 TOKYO コラム 特集

【新春スペシャル】それからのシーグラフ(1・バンダイナムコスタジオその1)

皆様、大変長らくお待たせいたしました!

昨年末、我々は外に飛び出しておりました。SIGGRAPH Asia 2018でのご縁を経まして、今回SA2018事務局様、バンダイナムコスタジオ様、オー・エル・エム・デジタル様のご厚意で取材をさせて頂く機会を得たのです。

今回から4回に渡りまして「それからのシーグラフ」と題し、2019年に向けた取材記事をお届けしてまいります。よろしくお願いいたします!

まずは「REAL TIME LIVE!」で注目を浴びました、あのモーションキャプチャー技術から!

それからのシーグラフ 第1章 「BanaCAST」が見せてくれた、モーションキャプチャーへの熱い想いと「それから」

左)大曽根 淳さん(Mocap /『BanaCAST』チーフプロデューサー)右)森本 直彦さん(モーションデザイナー/『BanaCAST』ディレクター)

バンダイナムコスタジオさんは昨年のSIGGRAPH Asia 2018にて「REAL TIME LIVE!」「VR / AR」「展示会」などのプログラムに採択、VRonでも取り上げさせていただきましたね。

この度、バンダイナムコスタジオさんのご厚意で「REAL TIME LIVE!」「VR / AR」「展示会」に参加された3つのセクションを取材させて頂きました。誠に、誠にありがとうございます!

今回はその一つ目。「REAL TIME LIVE!」に採択されましたモーションキャプチャー技術「BanaCAST」について、プロデューサーの大曽根さん・ディレクターの森本さんにインタビューさせて頂きました。関連の「REAL TIME LIVE!」に関する記事はこちらになりますので、ご一緒にじっくりとお楽しみくださいませ!

SIGGRAPH Asia 2018 TOKYOレポート18(「REAL TIME LIVE!」その3)

2018年12月4日から7日までの日程で、東京・有楽町にあります東京国際フォーラムにて開催されました、「シーグラフアジア2018」(SIGGRAPH Asia 2018)。18回に渡ってお送りしてまい ...

また、SIGGRAPH Asiaによる公式の「REAL TIME LIVE!」全編動画についてはこちらをどうぞ!

VRon SIGGRAPH ASIAでのデモンストレーション、お疲れ様でした。本当に素晴らしいデモンストレーションでした!
BanaCASTの取り組みについては、バンダイナムコスタジオさんのサイトにて詳しいインタビュー記事が掲載されていますのでぜひそちらをお読みいただくとしまして……

『BanaCAST(バナキャスト)』ができるまで(前編) https://www.bandainamcostudios.com/works/marche/banacast_part1.html

今回はSIGGRAPH Asiaにおける発表時のエピソードなど、もっと詳しい部分を伺っていければと思います。よろしくお願いします!

大曽根・森本 よろしくお願いします。

VRon BanaCASTはこれまでにTGSの出展や「EGOIST」さんのライブなど様々な活用をされていらっしゃっていて、その上で今回SIGGRAPH Asia、しかも本番一発勝負の「REAL TIME LIVE!」に出されたわけですが、どのような経緯で発表に至ったのかを教えて頂けますか?

大曽根 今回SIGGRAPH Asiaで初めて「REAL TIME LIVE!」が初めて行われる、という話で、事務局さんから招待という形でお声がけを頂きました。

森本 BanaCASTを露出する機会については、少しでも(BanaCASTの)認知が広まればということもあり、できるだけ受けられるものは受けていきたい、というスタンスでして、今回のお誘いについても「ぜひやりたいな」と思い、受けさせていただきました。

(カッコ内は筆者による補足、以下同様)

VRon 「REAL TIME LIVE!」ではプログラム内にぶっつけ本番でデモンストレーションを行う、ということで、皆さんでも相当のご準備をされたことと思いますが、今回の発表で特に準備をされたことなどはありましたか?

森本 BanaCASTというもの自体が「生で(公演や発表を)行う」ものでして、実際に100ステージ以上をライブで実演しています。そのため今回の「REAL TIME LIVE!」発表でも特別に何かをする、ということではなく、BanaCASTそのままをお見せしました

当初事務局さんから「だいたい7分くらいのデモンストレーションを」とお聞きしていたのですが、普段のステージでは短くて1時間、長いと2時間とかをノンストップで行います。そのため、言葉が適切かどうかはわからないのですが……我々としてはある意味でだいぶ「気楽」というか(笑)。

時間が短い分、何か本当にトラブルが起きたときにリカバリーが効かない、という面はありますけど、我々のスタッフがこれまでに様々なトラブルを経験して場数を踏んできていますので、(今回のために)何か特別なことをする、ということはありませんでしたね。

大曽根 我々もいろいろな場所でやっていたりしますので、現地に行ってみなければわからない部分が大きいのですが、図面などを見させていただいた上で「おそらくこれなら大丈夫だろう」と。特に今回は事務局さんにご協力頂いたりご相談とかもさせて頂いていましたので、モーションキャプチャーの設営から含めて、特にすごく心配な点は何もない……ぐらいだったかな、と思います。

森本 今回出られたチームの皆さんを拝見していて、たぶん我々が一番大掛かりな装置を会場に持ち込んだと思うんですけども、ああいうシステムをいったん設置すると変な話、7分やろうが2時間やろうが労力があんまり変わらないんですよね。ですので、そういう意味ではいろいろと大変でした。

「技術革新によってリアルタイムでこんなに面白いことが表現できる」

VRon 今回のデモンストレーションでは特に「トラッキング性能」が非常に正確だな、というのが非常に印象に残りました。この正確さや精密さが他のモーショントラッキングとの大きな違いといいますか、「強み」ということだと思うのですが、その辺りについてはいかがですか?

森本 今回「7分」という設定で(デモンストレーションの)お話を頂いたわけですが、この「7分」の間にどのようなものをお見せしていくのか、という点で非常に悩みましたね。短くもあるし、ただ漠然とやるには長いし……、ということで「何をギュッと(7分の間に)詰め込めばいいのか」ということを社内で話しました。

準備期間もあまり取れなかったこともあって、その時点からあまり新しいことをやろうとするのも難しい、となりまして、「では、我々として今持っている物の中で見て頂くに値するものとは何だろう」、と。

あと、他でもモーションキャプチャーのデモンストレーションを行うチームがある、ということをお聞きしていたので、見る側からすると「似たようなもの」に対して、自分たちなりの独自性を少しでも感じてもらえる内容ってどんなものだろう? というところで内容を決めていったのですが、そういった中でいくつかポイントがありまして。

まず「空間を自由に動き回れて、かつ正確にトラッキングできる」というのが我々の強みであるというのは強く認識しているので、その部分を見て頂けるようにしたい、という点を重視しましたね。

あとは「安定感」。見ていて不安のない安定感、というのも我々の強みかな、と。おそらく見ている方がキャラクターの動きとして不自然に感じたところはほぼほぼなかった、と思っています。リアルタイムで行うモーションキャプチャーというものって、どうしても不安定な面が出てしまうことが多いので、その部分で我々の持つ安定感を感じ取って頂けたら……という内容にできれば、というところで構成を決めていきました。

VRon 非常に安定されていましたよね……。それと、特に「遅延」がほとんどなかったのが驚きでした!

大曽根 やっぱりライブというところでやるにあたって、リアルタイムでモーションキャプチャーをして映像としてお見せするとどうしても遅延が発生してしまうのですが、やっぱりそこは如何に遅延をなくしていくか、ソフトやハードの両面からどうやっていったら遅延が少なくできるのかというのを、BanaCASTをやっていく中で詰めていったところではあります。

リアルタイムで即応性があるからこそ面白い、というのがあるので、遅延というところは非常に気にしてやっていますね。

VRon 今回実際に「REAL TIME LIVE!」でデモンストレーションをされてみていかがでしたか? 例えば来場者の方からこんなフィードバックがあった……ですとか。

大曽根 リアルタイムなので、本当はお客さんというか、聴講者とのコミュニケーションをとりたいなーていうのはあったんですけどね(笑)、今回(SIGGRAPH Asia)は学術系の会議ということもありましたので、そのような(エンタメ的な)ことは控えていたところはあります。

今回「我々のBanaCASTだからできること」をというのをお見せしたいな、と考えたときに、階段を上ったりバック転をしたりといった激しい動きをしてもリアルタイムでちゃんと(トラッキング)できるんですよ、というところを、今回SIGGRAPH Asiaという歴史的な場所で、技術的な面でお見せすることに主眼を置いたわけですが、一番の本質の「面白さ」という点で言えば「技術革新によってリアルタイムでこんなに面白いことが表現できるんですよ」というところをお見せ出来たのかな、と思います。

大曽根 また、これは当初の社内でのプレゼン段階からよく頂いているのですが、「本当にキャラクターがそこにいる」と言ってくださる方がすごく多いのは嬉しいですね。僕らがBanaCASTをやっていく中で「次元を超えて一体感を得られるものをお見せしたい、作りたい」というのがあったので、その「次元」を超えることができたのかな、というか。

「アイドルマスター」の時なんかは、来て下さったプロデューサーさんが泣いてくださったりとか……。自分の目の前で実際のステージに立ってくれる、というのを見て喜んで下さる、嬉しくて泣いてくださる……。そういう反応を頂いた時は本当に嬉しかったです。

あとは……、今回モーションキャプチャーの風景をスクリーン映像でお見せしたのですが、実際まさにそのスクリーンの脇でやっていたので、あれを生で見えるところに設置したかったなーとか(笑)。

会場の方の左半分の方には(キャプチャーの風景が生で)見えていたと思うのですが、右半分の方には見えなかったと思います。あれだけが今回悔いが残るところで(笑)、あのキャプチャーしている風景をぜひ肉眼で見てもらいたかったですね。

「普段好きな空想上のキャラクターを、如何に本当に目の前で感じてもらえるか」

森本 今回のSIGGRAPH Asiaで言うと、基本英語ベースで半分以上のお客さんが海外の方、と聞いていたので、7分という短い時間だからこそ、内容的につまらないものにはしたくないなというのがありました。

「いくら技術的な紹介であっても、海外のカンファレンスでよくあるように、合間でたまに笑いを誘う要素とかが必要なんだろうな」と勝手に思っていまして(笑)、やっぱり何かしらエンターテイメント性が欲しいなーというところで、構成の中に何カ所か「ここは笑いを取りたいな」と思って入れた内容があるんですよ(笑)。

VRon 確かにありましたね(笑)。

森本 で、それが英語圏の方にとって本当に笑ってもらえるのかな、ウケるのかなというのがすごく心配だったんです。それなりに笑っていただけたので、そこは非常にホッとしました(笑)。

あと今回、我々としては事前の感覚として、「ちょっと内容的に普通すぎて面白いと思ってもらえるのかな」って心配がありました。「モーションキャプチャーを使ってキャラクターを動かして生で動かす」というのは、外側だけを見れば今の時代だと割と普通なことなんですよね。

大曽根 ましてやモーションキャプチャー業界としては、ずっとやってきたことだったりしますからね……。

森本 それこそ本家SIGGRAPHなんかだと、ものすごくリアルな3Dアバターがリアルタイムで動く、ということをどんどんやっているので、「技術的な難易度としてはもっと高いものが実際にある」ということを踏まえると、これで面白いって思ってもらえるのかな、という心配が少しありました。

そこに対して事前に意識していたのは、海外の凄いものって、だいたい「凄くリアル」で「実写みたい」なものだったりしますけど、我々が目指しているのが、「普段好きな空想上のキャラクターを、如何に本当に目の前で感じてもらえるか」である、ということです。

アバターではなくキャラクターに主眼を置いているというか、クオリティという言葉一つをとっても、ただリアルということだけが基準ではなく、あくまでキャラクターとして適切に表現できているか、という方向性で考えているので、そこは日本独自かもしれないし、がゆえに新鮮な感覚を持って頂けるのではないかな、ということを想定していました。

それがある程度受け入れられたようだったので、とても嬉しかったですね。

VRon これまでに様々な形で提供されているBanaCASTですが、今後の展開や将来について、お話しできる範囲でお聞かせいただけますか?

森本 せっかくここまでやってきたので、今よりも発展した形でもっと面白いことをやっていきたいな、という思いは変わらないですね。

我々のやるべきことというのは、「バーチャルなキャラクターを実際にいるかのようにお見せする」という枠組みの中で、我々としては一番クオリティの高いものをやりたいと思っていますし、それが今の我々の役割なのかな、と思っています。

ただ、「クオリティが高い/低い」という点に優劣は存在しない、と私個人的には思います。それぞれにメリットデメリットがあるといいますか、結局は見ているお客様達が楽しめれば手段は問わないと思うので、それぞれにいろいろなやり方があって、とにかく楽しいコンテンツを作り出せればいいと思うんですね。

「では、自分たちには何ができるのだろう、自分たちがやるべきことは何だろう」と考えたときに、我々はこれまでに培ってきたモーションキャプチャーの技術もあるし、キャラクターをビジュアルとして表現するノウハウもあるので、ある意味クオリティの方向に「振ろう」という感じです。

代わりに(システムが)大掛かりになってしまうというネガティブな面もあるんですけども、でも我々はそっち(クオリティ重視)の方向に振ったものをこれから先も当面はやっていきたいと思います。

「より難易度が高く、かつクオリティの高いものを」「いろんなキャラクターを愛してくれている人たちが、触れ合える場を作りたい」

森本 最近はVTuberが盛り上がってきて、手に入れやすいデバイスでそこそこのものが作れるようになってきた、というのは非常に大きいと思うんですけど、そういったものって、ある意味我々としてはうらやましくもあります。フットワークも軽いし、とにかく面白いですし。

でも、我々がやるべきはそこではないかなー、という感覚ではいます。

基本的に目指す方向としては、「より難易度が高く、かつクオリティの高いものを」です。近い将来で考えているものとしては、もっと多くの人数を出せるように、それもクオリティを落とさずにいろいろなキャラクターを同時に出したい……とかですね。

動きの質に関してもまだまだ完全に満足しているわけではないですし、よりよくする方法はきっとあるはずで、(その意味においても)まだまだやることはあるかな、と考えています。

大曽根 技術的な視点でいいますと、顔とか指とかの表現をもっと豊かにしたいとか、キャラクターが確立されている物であれば、そのキャラクターが表したいことをもっと表現できるようにしたい。というのがありますね。

あと、バンダイナムコスタジオでは映像を作れたりとか、演出的なところを考えることができる人間がいますので、ライブやネット配信などの「人が見る絵面的なもの」といいますか、総合演出的なものを含めて発展したものを作っていきたいな、というのがあります。

活用先としては、バンダイナムコグループにはいろんなIPがあります。(バンダイナムコの)いろんなキャラクターを愛してくれている人たちがいっぱい世の中にいて、そういう人たちが(キャラクターと)触れ合える場を作りたい、という思いがあるので、そのような機会を作っていきたいですね。

VRon 最後にVRonWEBMEDIAの読者の皆さんへメッセージをお願いします!

大曽根 今後というか、もともとの目的でもあるのですが、キャラクターというところであったり、現実の世の中に存在しないものを本当に身近に感じられるように、さもそこにいるかのようなもの、というものをもっとやっていきたい、と思っています。あとは見せ方的なものですね。アウトプットとして現在はスクリーンやモニターでやっていますが、それとはまた違う形のものを世の中に出していきたい、チャレンジしていきたい、と思います。

森本 社内ではBanaCASTという名前で認知を広げていきましたが、一般社会の中ではまだまだ知られていない存在だと思うので、今回をきっかけにして少しでも「BanaCAST」というサービスがあり、こういうことをやっている、という認知が少しでも広がっていけば、と思っています。我々としては「5年後・10年後も、もっとキャラクターが生活の一部として楽しめる世の中にしていきたい」という思いでこういうサービスをやっておりますので、ぜひご期待ください。

大曽根 あの話はしなくていいんですか? 2020……(笑)。

森本 (笑)。もうだいぶ近づいてきてしまいましたが、東京オリンピックや万博といった国を挙げてのビッグイベントになにかしらこう……お手伝いできないかな(笑)という野心をもってやっておりますので、何かありましたらお声がけください(笑)。

お二人のお話を伺って非常に強く感じたこと、それは、「BanaCAST」として何ができるのか、ということを誰よりも真剣に考え、それを真っすぐな意識の元に実現させることができるほどに強い、真摯で情熱的な志でした。

確かにお二人がおっしゃる通り、「REAL TIME LIVE!」でのプレゼンテーションは安定感の塊のような完璧さでしたし、だからこそ安心して驚くことができました。それも、100を超える現場経験・ノウハウの裏打ちがあり、さらにその上でとてつもなく高い「志」を目指していらっしゃる……。BanaCASTの「それから」に期待せずにはいられない、そんなインタビューでございました!

そんなバンダイナムコスタジオさんの採用情報はこちら!
2020新卒採用は3月1日からスタートとの事です!

次回は、「REAL TIME LIVE!」で華麗にバーチャル空間を舞った「あの子」について、じっくりとお話を伺います。お楽しみに!

取材協力:株式会社バンダイナムコスタジオ

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

Twitter で

-SIGGRAPH Asia 2018 TOKYO, コラム, 特集
-, , ,